あなたと月を見られたら。


一つ席を飛ばしたすぐ隣に美女は座っている。ブスっとむくれた顔をしている私を横目に見てクスッとバカにしたように笑うと

「ねぇ、龍聖。あの話、前向きに考えてくれた?」

甘えた声で美女が尋ねる。


龍聖はカウンターの中で私に出す用のレモン水とおしぼりを準備しながら

「その話はまた今度。」

またまたあの嘘くさい笑顔を浮かべて彼女に答える。



お冷とおしぼりを私の目の前に置いて

「いつものオリジナルブレンドでよろしいですか?」

龍聖は私に向かってニッコリと微笑みかける。


真意の見えない、その笑顔。嘘くさい、作られた営業用の龍聖の笑顔。私の大っ嫌いなその笑顔に向かって

「…ハイ。カップはティファニー以外ならなんでもいいです。」

そう言い放つと、彼は私の嫌味なんて気にもしないで

「わかりました。」

平然とそう答えたのだった。


元カノと今カノ?
いや…龍聖のことだから現在進行形で私と彼女の2人と付き合っていて、、、2人とも今カノ、って可能性もあり得る。(今思えばこの人、私が入ってきた瞬間も悪態ついてたもんね。)


なんだか居心地の悪い三角形。1人の男を2人で取り合うこの図に辟易してしまうけど、ここで逃げたら女がすたる!


心のふんどしを締めなおしてムンッと息巻いていると

「また今度、じゃないわよ。
あの天下のAGファイナンスがあなたを雇いたい、って言ってるのよ?龍聖には2年近くブランクがあるのをわかっていながら。こーんな美味しい話、2度と湧いてきやしないわよ?」

美女は龍聖に向かってこんな言葉を投げつける。


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