あなたと月を見られたら。
叩いた瞬間のドンっという木の鈍い音。それと同時にに彼女の近くにあったカップも振動でガチャンと大きな音を立て揺れる。
激しい物音に思わず身をビクつかせてしまって。そーーっと2人の方へ顔を向けると、彼は美女の怒りを真正面から受け止めながら
「…あのさ?わかってるから言ってるつもりなんだけど。」
辛辣な言葉を吐いてギロリと美女を睨みつける。
イラつきを隠せない、怒りに燃える目をお互いがぶつけている。お互いがお互いを無言でジリジリと睨みつけ、静かなにらみ合いの時間を数分過ごした後
「あのね、龍聖。強がっていいカッコぶるのもいい加減にしなさいよ。」
美女は立ち上がって、嘲るように周りを見回した。
「現実を見なさいよ、龍聖。ここにいるお客は私と彼女2人だけ。お世辞にも流行っているとは言えない、しょぼくれたカフェがアンタが大事にしてる城なのよ?こ〜んな状態じゃそのうち資金が切れて潰れるのが関の山ね。どうせ潰れるなら今すぐ辞めて、条件のいい会社に入ったほうが賢くない?」
はぁ?!
この人、何て事言うの?!
あまりに独善的なその考え方にカチンときてると
「賢くない。」
「は?」
「高級スーツに高層階マンション。夜な夜な行われるパーティーに、自分に群がる金目当ての女。もう全てにウンザリなんだよ。俺は俺なりに毎日を納得して、満足して暮らしてる。頼むから…もう放っておいてくれないかな。」
龍聖はあくまでも冷静に自分の言葉を紡いでいく。そんな彼に心の中で拍手を送りながらウンウンと聞いていると、その言葉を聞いた美女はその美しい顔をみるみるうちに歪ませて
「はぁ?!あり得ない!
お金のない男なんてクズよ、クズ!!お金のないアンタなんてね!!顔しか取り柄のないダメ男と同じなんだから!」
こんな酷い言葉を龍聖に投げつけた。