あなたと月を見られたら。


多分さ??
龍聖が彼女のこと好きなのは、こういうところなんだと思う。


まず牧村美月は嘘をつかない。嫌味だって親切に変えてしまう、お人好し。それに…当たり前のように人を思いやる気持ちも持っている。だからこそ…席1つでこんな大騒ぎして悩んじゃうんだろうね。


そんなのいい大人なんだから、数時間くらい我慢しろよな。お前らの都合なんて知らねーよ。って俺なら思ってしまうけど…善意と不器用のかたまりみたいな彼女はそれ1つで大騒ぎ。


こちらが主催するパーティーにご招待するんだから、できる限り、限られた時間を快適に過ごしてもらいたい。そのためには私が頑張らなきゃ!!


馬鹿な彼女は、きっとそう思っているんだと思う。



俺の渡した席次表を見ながら

「うん!これなら大分スムーズに置き換えられるかも!」

こっちの気持ちなんてお構いなしにニコニコしながら席を決めていく牧村美月に


「もうちょっとだけアンタの良さに気づくのが早かったなら…話は違ってたのかな。」


ボソッと呟くと牧村美月は一瞬首をひねりながら

「何か言いました?麻生さん。」

こんな言葉を口にする。



「ううん、こっちの話。」



天使の笑みを浮かべながら、そう答えると「そうですか。」彼女は不思議そうな顔をしながら、また仕事に戻っていった。



龍聖に再会する前にコイツに惚れてたら、今この人を独り占めしてるのは俺なのかな。


最近ふと、そんなことを思う。


いい人の麻生さん。
優しくて爽やかな麻生さんは彼女には好意的に受け止められていたはずだから、あの時に押しておけば牧村美月は俺のものだったんだろうな。


今頃になってそんなことを思っても仕方ないことは、わかっているつもりだけど。

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