あなたと月を見られたら。
お昼休みのたびに「龍聖が」「龍聖が」を連発する彼女を見てると、俺の悪魔が囁いて黒い気持ちがドンドン湧いてきて。このまま最悪な形で2人を壊してやりたくなる衝動にかられる時がある。
でもさー?
俺…龍聖のことも好きなんだよね。
佐伯塔子というエキセントリックな母親の血を受け継いだ、双子の片割れ。
『いい?龍ちゃんに優ちゃん。
男なら悪い男にならなきゃダメよ?無条件に優しいだけの男になんてなったら絶対にダメ!!女の子にはね?アメ3:ムチ7くらいの割合で優しくするのがちょうどいいの。』
『女の子は計算高いから、それを手玉にとるくらいに狡猾にならなきゃダメよ?悪い男は本能でそれができるの。』
俺たちが小学校に上がる頃からこんな独自の価値観を植え付けていた塔子さん。まぁさ?今になってみると塔子さんが言わんとしていることも多少は理解できるようになってきたけど……それを聞いて育ったおかげで俺と龍聖はまともな恋愛、ってヤツができなくなった。
駆け引き…っていうのかな。
純粋に惚れた、腫れたじゃなく、女の子を落とすまでの過程を楽しむっていうのかな。まるでゲームのように恋愛することが主流になって、それが当たり前になっていた。
小・中の間はこの顔のおかげで、そこそこモテた。高校になったら都内でも有数の進学校に行ったおかげで更にモテた。今だって大手の出版社に勤めてる、ってだけで寄ってくる女は数知れず。
その場のオトナの駆け引きは楽しいし、何よりセックスは気持ちいい。好みのオンナならそれだけでご機嫌だし、二股、三股もスリルがあってやめられない。
それをお互いに楽しんで、会うたびに自慢し合ってたハズなのに……龍聖は2年前のある日、真面目な顔してこう言った。
「俺、、変なんだ。
凄く気になる子が出来ちゃったんだ。」