あなたと月を見られたら。
そんな風に思う自分にもビックリだけど、それ以上にコイツとの会話を楽しんでる自分に…一番驚いちゃうんだよねぇ…。
「いーじゃん。
勝手に買いたくて買うんだから、悪銭じゃないじゃん。」
「いや、そうなんですけど……」
「じゃぁ、問題ないじゃん。
はい、決定ー。
買いたいなら買わせればいいし、売りたいなら売らせればいいんだよ。1280円だろうが、9670円だろうがオプションで龍聖が付いてくるなら大枚はたいて買うマダムなんて一杯いるってば。ほっときゃいーんだよ、放っておけば。」
「コラー!
話聞いてました?!麻生さん!
悪銭身につかず!悪銭身につかずなんですよ!!」
こんな風に一生懸命な彼女を見てるとからかわずにはいられなくなる。ちょっとの時間でも彼女と話していると真っ赤になったり、真っ青になったり、クルクル表情が変わって、いつも彼女はいそがしい。
だから最近はこっちから誘っちゃうんだよね。「ランチ行こう」って。
向こうからだったり、こっちからだったり、誘う方はいろいろだけど…彼女のことを知れば知るほど。感じれば感じるほどにこう思う。
この魅力に気づいた龍聖はさすがだな、って。この子を待ち続けて、アプローチし続けた龍聖はスゴイな、って。
だってかわいいもん。この人。
いやさ?外見は十人並みなの。どう高く見積もったって10人並み。そこは絶対変わんないとこなんだけど……育ちがいい、っていうのかなぁ…。
うまく言えないんだけど魅力的なんだよ。彼女は人間として大事なことは絶対に外さない。人としての情も厚い。知れば知るほど…俺は彼女の虜になっていく。
「まったく…。
そんな考え方してたらいつまでたっても恋人できませんよ?!」
プリプリ怒りながらアイスジンジャーティーをすする彼女に
「じゃぁ、牧村さんが俺を調教してよ。」
と笑いながら伝えると、一瞬ブフッと盛大にむせた後
「……珍獣二匹は私の手には負えません。」
「はい??」
「もー!冗談もほどほどにしてください。ともかく!私は龍聖のお世話で手一杯なので調教師は誰か別の方を当たってくださいっ。」
アッサリ冗談に受け取られちゃった。
あーーぁ。
冗談じゃなかったのになぁ…。
でも、ま。長期戦でいきますかね。
なんかこの人押しに弱そうだし。
ついでに言えば龍聖より俺の方がいろんな意味でテクニシャンだし?
急いては事を仕損じる、って昔の人も言ってるしね。
そんなことを思いながら、俺はグラスの底にわずかに残ったアイスコーヒーを勢いよく吸いあげた。