あなたと月を見られたら。
side 龍聖
◆ ◆
最近、優聖の様子がおかしい。
何がおかしいって…
「はい、牧村さん、あーーん。」
「な、何してんですか!麻生さん!
私は私でチーズケーキ食べるからいりませんっ!」
「えー?!つまんないのー。」
最近…何かと店に来る。
しかも美月と2人で!!
今日も今日で明日が美月が休みだ、っていうから店で待ち合わせして、閉店したら俺の部屋に行こう、って約束してたのに……
「やっほー龍聖。
1280円のバカ高いチョコケーキ試食しに来てやったよ〜❤︎」
だなんて言いながら、閉店間際の店に美月と並んで現れた。
いつもだったらさ?
美月はカウンターの一番端に座って
「邪魔にならないように待ってるね。」
とか可愛いことを言いながらブレンドを注文して待ってくれる。
「コーヒーくらい俺がおごるよ」
と言っても
「ダメ。彼女だけどお客さんだもん。ちゃんと払うよ。」
と律儀にお金を払ってくれるカノジョに、いつも惚れ直して。美月のこういうところが好きだな、って思いながらコーヒーを淹れているのに。
「ねーねー!龍聖!
この後オマエん家で3人で焼肉ね!」
「…はぁっ?!」
「いーじゃん、いーじゃん!
俺さ?!駅前の肉屋で美味しそうなの見繕ったんだよ。ねー、牧村さんっ❤︎」
なんか…最近コイツのせいで甘い雰囲気がブチ壊されてる気がする。
しかもなんで美月特製のチョコケーキのことをコイツが知ってるんだよ!
美月特製のチョコケーキ。
それはベルギー産の高級チョコをふんだんに使った超濃厚なチョコケーキ。そのケーキには丸くて大きいトリュフとクルミがトンと置かれたカノジョの為だけに作った、美月のケーキ。
付き合って初めて知ったことだけど…美月はスウィーツが大好きで、どうもチョコレートが一番好きらしい。
昔ならティファニーでもポンテベッキオでもスタージュエリーでも何でも買ってやれたけど…今の身分じゃそうもいかないからさ?
だからせめて、自分の気持ちを伝えるために何か特別な贈り物を…って思った時に思いついたのが、このケーキだった。