あなたと月を見られたら。
別に商品化したかったわけじゃない。誰に売るつもりもなく、ただ美月の笑顔が見たくて試作してたチョコケーキ。
やっと納得いく味が出せて、美月をからかうつもりで「一個1280円のケーキができたよ。」って嘘ついた。怒って困って、俺を説教する美月が見たくてそんな冗談をふってみたのに……
「龍聖!コレが1280円のバカ高いチョコケーキ?なんか普通の味に思えるけど?」
フフンと笑いながら、優聖は得意げに550円のチョコケーキを口に含む。まったく…なんでコイツがそれを知ってるんだよ。ムカつくな。
「アレはまだ試作段階。
商品化されるのをお楽しみにお待ちください。」
洗いたてのカップをタオルで拭きながら、冷静を装って答えると
「…だって。良かったね、牧村さん。」
優聖のヤツは天使の笑顔で美月ににっこり微笑みかける。それだけならまだいい。それだけならまだしも、それに安堵したように笑う美月に納得いかない。
「良かった…。」
ホッと一息ついて胸をなで下ろす美月に、悪魔の尻尾をフリフリしながら、ウンウンと嘘くさい笑顔で微笑む優聖。
ーー何やってんだよ、アイツ!
イラっときながら高級カップをグイグイすごい力で拭いているとニヤリと笑ってこちらを見る優聖と一瞬目が合う。
『ふっふーーん。
俺が本気出せばこんな女なんて、すぐ落とせちゃうよー』
挑発するようなあいつの目。
ーーアイツ〜!!
からかってるのか本気なのか、つかみどころのない双子の片割れの意地悪い笑みを見ながらイラっときた俺はカップを拭く力をさらに強くする。
まるで憎しみを吐き出すように、苛立ちをこねくり回すようにグイグイギュイギュイ拭いていると
「りゅ、龍聖!そんなに力いっぱい拭いたらカップ割れちゃうよ?!」
無自覚な子羊ちゃん、牧村美月は心配そうに俺に駆け寄る。