あなたと月を見られたら。


誠実で真面目なくせに、こういうことにはひどく鈍感な美月。


「もうっ!ただでさえこのお店のカップは高いんだから、そんな風に扱ったらすぐにダメになっちゃうよ??」


俺の眼の前までツカツカと歩いてきて、ほっぺをプゥっと小さく膨らませながら、またプリプリとお小言を言う美月。


カノジョの鈍感すぎる所にはだいぶ苦しまされて来たけれど…こういう所はカワイイと思うんだよね。純粋というか、なんというか反応が新鮮で。


優聖は好きだけど…。
俺以外の男と笑い合う美月は見たくないんだよねぇ……。


そう思った俺はにっこり微笑んで、自分の手に持っているカップと食器拭きをカノジョにスッと差し出した。


「じゃあ…美月が磨いてよ。」

「えっ??」

「そしたら俺、それを真似しながら次のを拭くよ。」


当然のことながら美月は「ええー?!」と大きな声をあげて拒否したけれど


「ほら、そこのカウンター座って。美月。一緒に2人で片付ければ、それだけ早く家に帰れるでしょ?」


そう言うと


「まぁ、そうだけど……」


カノジョは不満そうに俺を見上げる。そんな彼女にニッコリ微笑んで


「じゃ、決まり。
一緒にカップ拭いていこう。ほら、座った、座った。」


そう促すと美月は渋々カウンターに腰掛けて洗ったカップをキュッキュッと吹き始めた。


黙々と拭き続ける美月に、それを片づける俺。時折「このカップいいね。」とか「このブランドなんて読むの?」とか美月が聞いてくるから「それはね?」と優しく優しく教えてあげたんだ。


そのたびに「へぇ。」とか「すごい!」とかリアクションを取る美月が可愛くてニヤニヤニマニマしてると、、、。なんだか凄い視線を感じて優聖の方を見た。


そしたら…優聖はブスッとした顔をしながらチョコケーキをグサグサ刺して、苦虫を潰したような顔をして口にグイグイ入れてたんだ。


ーーはあ?なんで??


意味わかんないな。
美月が優聖の好みから激しくズレてることなんて、ハナっからお見通し。ただ俺をヤキモキさせたくて、あんな行動を取ってるんだと思ってたけど…もしかして違うのか??


< 220 / 223 >

この作品をシェア

pagetop