あなたと月を見られたら。
いつだって女の前では天使みたいにニコニコして、悪魔のシッポはひた隠しに隠す優聖。俺なんかよりもドス黒くて、塔子さんの言うところの「悪いオトコ」を地で行く優聖。女の前では絶対にボロを出さないヤツなのに……。
目の前にいるのは明らかに嫉妬をした瞳で俺を見つめる、ただの男。悪いオトコな優聖はどこにもいなくて、いるのはただ、チョコケーキをグサグサ刺してイライラしているただのダメなオトコ。
計算なんて何もなく、恨めしそうに、でも必死に何かを隠そうとチョコケーキに八つ当たりする、その瞳にピンときた。
___ふーーん。なるほどね。
優聖が何を思い、何を想ってるのか、その瞬間にピンときた。優聖は大事な弟。唯一無二の俺の片割れ。似てない似てないと思ってたけど……変なとこだけ。女の趣味だけは似てた、ってことか。
心の中で盛大なため息をつきつつ、目の前に置かれたグラスをキュッキュと音を立てながら拭いていく。隣にいる、愛しいカノジョが真剣な顔をして、同じようにグラスを磨く。
俺の心のポッカリ空いた穴をスッポリと包んでくれる、優しい彼女。俺の知らない、いろんな愛を俺に教えて、俺に与えてくれる、唯一無二の俺の美月。
眩しい笑顔。深い愛。そして肩書きじゃなくその人の本質をしっかり見極める、その誠実さ。優聖にして見れば、それらをサラッとやってのけてしまう美月は太陽みたいに眩しい存在に違いない。
__気づくのが遅かった。
全てはその一言に尽きると思う。
でも……だからと言って譲る気もない。