あなたと月を見られたら。
はーぁ。昔の男に昔の後悔を愚痴るって何か情けないなぁ。
まぁ、とにもかくにもあの時の私は自分が嫌いだった。好きなくせに我慢することしかできない自分も言いたいことも言えない自分も、何もかもが嫌だった。
だから恋愛経験豊富で女の子なんてよりどりみどりな龍聖にとって、自分は“落とし甲斐のないつまんないオンナ”って見られてることも、わかってた。
だけど…好きだから我慢しちゃったんだよねぇ。
居心地の悪い関係であることは痛いほど理解してたくせに、その手を離したくなくて、気づかないふりして、少しでも龍聖と付き合っていたくて……本当の自分にフタをした。
それが辛かったから、そんな自分が嫌だったから…別れを選んで、次の恋は優しい愛のある人と当たり前の恋がしたい、と望むようになった。
「好きな人に嫌われたくない、ただそれだけだったんだよ。龍聖のいうとおり…そんな自分はバカだった、と思うけどね?」
「…そんなもんかね。」
「うん。そんなもんよ。」
あの頃を思い出して少しだけ二人でしんみりして。残り一口になったコーヒーを一気に飲み込み
「ごちそうさま。美味しかった。」
そう言って席を立つ。
そして人質のボールペンを返してもらって、もう会うこともないだろうあの人にニッコリ微笑んだ後、お店の扉をゆっくり開けて外に出た。
相変わらず、愛のない男な龍聖。だけどそんな男でも大好きだった過去は忘れられない。だから…会うのはこれが最後にしよう。忘れるんだ、龍聖のことは。そうしなきゃ自分がミジメで可哀想すぎる。
最低最悪で愛のない非情な元カレ。そんな彼と再会して、心から、心の底からこう思った。
やっぱり…
顔だけ良くても、あんな男はお断り!
私は絶対、優しい人と恋をする!!!
テールランプの光る夜の街を歩きながら、私は心に強く強く誓ったのだった。