あなたと月を見られたら。


昔と変わらない作り笑顔の仮面をかぶった彼。よく知らない、穏やかな表情を見せる彼。どれが本当の龍聖なのかがわからなくて頭の中が混乱する。


自由が丘の駅に着いて龍聖の自宅に着くまで、龍聖は私の手を離さなかった。


どうして今さら?今さらこんなことして何になるっていうの?


わからない。龍聖が何を考えているのか、本当にわからなかった。

頭の中を混乱させながら、龍聖にされるがままに手を引かれて連れて行かれたのは素敵な新築のマンション…ではなく古いアパートだった。築35年は経っているんじゃないかと思われる、2DKの古いアパート。


中は思ったよりも古めかしくなくて、龍聖らしい趣味のいいインテリアで統一されているけど…


「意外。龍聖のことだから、いいマンションに住んでるんだとばっかり思ってた。」


エントランスとかもとびきり広くて、もちろんオートロックのセレブ感満載なマンションに住んでると完全に思い込んでいたから、驚いてそう言うと


「マンションねぇ。住めるもんなら住みたいけど有り金全部、店に当てちゃったから当分無理だね。まだ店も軌道に乗ってるわけじゃないし。」


龍聖は気にする様子もなくアハハと笑う。リビングに置いてある本棚を物色しながら

「まぁ…昔はそういうとこに住んではいたけどね…。」


龍聖は言いにくそうにポツリと壁に向かってつぶやいた。

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