あなたと月を見られたら。


普通なら。普通ならきっとドキッとしてしまうんだと思う。少女マンガならありがちに、これでまた恋に落ちてしまうのかもしれない。


だけど私の中に生まれたのは“なんのためにこんなことを口に出すんだろう”っていう嫌悪と疑問。それしかなかった。


ダメだ。
これ以上、この人と喋ってるとおかしくなる。


向かい合っている龍聖の手から、和訳された本を手に取って

「そうだとしても…今更でしょ。」

と呟くと

「…そうかもね。」

寂しそうに龍聖が笑う。



「もし聞けるなら私はその言葉を2年前に聞きたかった。今更そんなこと言われても、何かが変わるわけじゃないでしょう?むしろ今更そんなことを口に出す龍聖が、とても自分勝手に思えるよ。」


そう言って私は踵を返して、龍聖の家の玄関へと足を進めた。


こんなところに長居は無用。話せば話すほど、お互いがすれ違って、傷つけ合ってしまう私たち。そんな2人が一緒にいることになんの意味があるっていうの?


それに…あの時の気持ちを語られても、あの時の辛かった気持ちだけが思い出されて、振り切ったハズの気持ちが急に2年前に舞い戻る。そんな関係、とても不毛だ。


だって…わたしは決めてるもの。次は自分だけを見てくれる優しくて愛のある人と恋をする、って。それは私の揺らがない決意。


私が次に恋をしたい相手は、目の前にいるコイツなんかじゃない。むしろ…龍聖とは真逆の人と恋をしたいんだから、これ以上過去の傷口をえぐられたくない。


思い出したくない。戻りたくない。あの時の気持ちには絶対に。


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