あなたと月を見られたら。


「ごめん、私何も知らなくて…」


自分が情けなくなって、恥ずかしくなって、俯いたまんま龍聖に謝罪すると


「いや…美月は何も悪くないよ。あの時の俺は明らかに歪んでたし、人として最低だったと思うしね。」


龍聖はそう言って私の前にコトリとコーヒーカップを置く。龍聖の淹れてくれた香り高いコーヒーの香りに包まれた空間の中で彼をフッと見上げると彼はニッコリと微笑んだ。


「あの時の俺は弱みは絶対に見せちゃいけない、って思ってたからなぁ。」

「…どういうこと?」

「なんだろうね。母親からも父親からも愛されてない、寂しくて可哀想な自分に気づきたくなかったから…妙に強がってたのかな?仕事で成果を出した時、賞賛されたときだけが心が満たされてた。それが嬉しかった。生きてる実感、必要とされてる実感を初めて感じたんだ。だからあの時はどうしても…弱音を吐いたり、自分の欠落してる部分を晒したりすることができなかったんだ。」


そう言った後、龍聖は小さく「ごめん」とつぶやいた。


いつでも自分勝手で、愛がなくて、私よりも仕事を優先させていた龍聖。好き、だとも愛している、とも言わなかった龍聖。


私…バカだ…


彼にこんな、心の傷があっただなんて知らなかった。気づきもしなかった。


目の前で申し訳なさそうに私を見つめている龍聖を見ていたらたまらない気持ちになった。


あんなに嫌っていたのに。むしろ憎んですらいた相手にこんな感情を抱いてしまう私はやっぱり頭がおかしいんだろうか。


初めて龍聖を近くに感じる。
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