あなたと月を見られたら。
強くて欠点のない龍聖よりも今の龍聖の方がずっとずっと魅力的に思える。
佐伯龍聖。この人のことをもっと知りたいと初めて思った。柔らかで、壊れやすくて、とても哀しい色をまとったこの人のことをもっと知りたいと強く思った。
傲慢で、ワガママで、自己中心的で、仕事だけが生きがいの龍聖じゃなく、本当のそのままの龍聖をもっと近くで感じたい。…そう思った。
お互いの手の内を探るように、お互いを癒し合うように無言の中で見つめあっていると龍聖はクスリと笑って
「美月。コーヒー冷める。」
そう言って私のコーヒーを指差す。
「あ、ごめん!!」
龍聖を見ることに夢中ですっかり忘れてたよ!!
慌てて口をつけると、この前のアイスコーヒーとは違う味わいが口の中に広がる。
「美味しい…」
素直に気持ちを言葉にすると
「ありがと。」
龍聖はニッコリ笑う。そして何かを思い出したように
「あっ!」
と声を上げた後、クルリと体を反転させてカウンターの奥にある冷蔵庫から小さなケーキを取り出した。
「そういえばコレ、試作品で作ってみたんだ。良かったら食べて感想聞かせて??」
そう言って私の目の前に置かれたのは、本屋さんで二人で見た、桃のムースだった。
透明の小さなグラスの中に入れられた桃のムース。白と薄いピンク、二層に分かれたムースの上には濃いピンクで彩られたジュレと桃のコンポートが乗せられている。
すごい!!
オシャレで美味しそう!
辛抱たまらず
「いただきまーす!」
小さなスプーンですくって口の中に入れると、桃の甘い味が口いっぱいに広がって幸せな気持ちになる。
「どう??」
「すっごく美味しい!!ムースは甘すぎなくて桃の自然な味が楽しめるし、ジュレもムースと違った食感で楽しいし…コンポートも爽やかですっごく美味しい!!」
うん!
これは絶対に商品にするべきだよ!!
鼻息荒くしながら絶賛すると、龍聖は嬉しそうにニッコリ笑って
「良かった。本当は洋ナシにしようと思ってたんだけど…あの時の美月の言葉が忘れられなかったんだよね。」
そんな一言をつぶやいた。