あなたと月を見られたら。
龍聖が振舞ってくれた桃のムースをペロリと平らげた後
「美月」
「ん??」
「俺はこれからも、こんな風に美月に会いたい。美月が許してくれるなら…連絡先を教えてもらえないかな。」
龍聖は苦しそうにそう言った。
前までの私なら、数時間前までの私なら「嫌。絶対に嫌!」そんな一言でキッパリとお断りしていたと思う。
だけど……
『悪い男、いい男、そんな色眼鏡は抜きにして、見えるもの、感じたものだけ信じればいいんじゃない??』
頭の中でリフレインするのは麻生さんの言った、あの言葉。
二年前の龍聖のことは大嫌いだった。自分勝手で、冷たくて、仕事のことしか頭にない、愛のない冷徹男。だけど…今目の前にいる龍聖のことは嫌いじゃない。
思い込みだけでこの人を判断したくない。自分の過去を打ち明けてくれた、あの言葉とあの表情が嘘だとはどうしても思えない。
よし……
迷うくらいなら飛び込んでみよう。
やれば良かった、っていう後悔は死んでもしたくない。それならやって後悔したほうがずっといい。
そう思った私はカバンの中から小さなメモ紙とスワロフスキーのボールペンを取り出して、ささっと自分のメールアドレスと電話番号を書いて、龍聖に手渡す。
意外そうな顔で私を見つめる龍聖に
「なに??」
悪態をつくと
「いや…絶対断られると思ってたからびっくりして…。」
龍聖はガラにもなく動揺してる。
なんの変哲も無いメモをガン見してる龍聖がおかしくてププッと吹き出すと
「ありがと、美月。」
龍聖は本当に柔らかな笑顔を向けて、私に笑いかけてくれたのだった。