あなたと月を見られたら。
昔の龍聖かぁ……。
ブランドもののスーツに身を包んで、外資系企業に勤めてた龍聖。確かにそれはそれでカッコいいんだろうけど、人間的魅力っていう点には劣る気がする。
お金も持ってる。地位も持ってる。人の羨むものは全て持っていたけれど、心の豊かさに欠けていた龍聖。人間らしい温かさや思いやりは明らかに欠如していた。
「うーーん。収入が良くても、いい企業に勤めてても、心に貧乏神が巣食ってる人は魅力的じゃないですよ。」
二年前、龍聖と付き合って学んだことは《どんなに高収入、高学歴、高スペックでも、愛がなければ意味がない》ってコト。
それを学んだからこそ、私は自分だけを愛してくれる優しい人と付き合いたい、って望んでいるわけで…。ハッキリ言って昔の龍聖なんてちっとも魅力的じゃないし、未練なんてサラサラない。
私が今、ちょーーっとだけ。
ほんのちょっとだけ気になっている人は“ただの龍聖”。ちょっとひねくれた性格してて、カフェのオーナーなんてしてて、とっても古いアパートに住んでる、男の人
間違っても昔の龍聖ではない。
ウンウンとうなづきながら厚切り卵焼きホットサンドをパクッと口に入れると
「心に貧乏神かぁー。上手いこと言うね。」
麻生さんはそんな私を見てケラケラと笑う。
ホットサンドを頬張る私。
そんな私を面白そうに眺める麻生さん。
その視線が少し居心地が悪くて「なんですか??」と、たずねると
「いやー。二人の出会いが気になるなぁ、と思って。」
麻生さんはニーッコリ微笑みながら、そんなことを言い始める。