あなたと月を見られたら。
今となっては何が彼のスイッチを刺激したのかは謎だし、刺激した割にあの放置プレイか!と思うとフツフツと怒りがこみ上げてくるけれど…。とにかくそれがキッカケで私は龍聖と知り合った。
話はもりあがって、楽しい時間はあっという間で、終電近くになってそろそろ帰ろう、と席を立っても……、勇気のない私は龍聖に「連絡先を教えてください」なんて絶対に言えない。
はぁ、今日はいい日だったな。
仕方ないけど、ここでサヨナラだ。
自分をそう納得させて
「私達、終電の時間もあるので失礼します。」
そう言ってオジサマたちにご挨拶して、お暇(いとま)しようとすると
「待って。玄関まで送って行くよ。」
ガタンと立ち上がって、龍聖が私たちの後ろをついてきた。
店のお会計を済ませてジョシュと「またね」のハグを交わした後
「コレ、俺の連絡先。
もしよかったら連絡して。」
龍聖は私に一枚のメモを差し出した。
そこに書かれていたのはメアドと携帯電話の番号。戸惑いながら受け取ると
「キミ、なんか変わってて面白いから。また一緒に飲もうよ。」
龍聖は呆れるくらいに爽やかな笑顔で、私を口説いた。
それが…キッカケ。
龍聖と自分は住んでいる世界が違うし、釣り合わないのは承知の上だったけど……若かったんだよね、多分。
イケメンに口説かれてルンルンに舞い上がった私は早々に龍聖に連絡してしまい…。龍聖に言われるがまま、誘われるがままにデートを重ねた後、アッサリと大人な関係に足を踏み入れ、私と龍聖は付き合うことになった。
付き合う、って言ってもさ?その後はご承知の通りなワケですよ。
龍聖は愛のない行動と愛のない態度で私を苦しめ、付き合ってるのにちっとも対等じゃない関係で私を縛り付けて、どんどん卑屈になる自分に耐えきれなくなって、最終的に私は別れを選んだ。
龍聖と付き合ってて楽しかったことなんて、最初の時くらいかな。後は一緒にいるだけでツラかった。
どんなに好きになっても、自分のことを決して愛してくれない龍聖がとても憎らしくてたまらなかった。