あなたと月を見られたら。


い、言ったよ、この人…
身も蓋もないこといっちゃったよ…


悪魔モードの発動に身を固まらせて、顔をピクピク引きつらせていると


「ってことで頑張ってね、牧村さん。
頼むから俺を失望させないでよね……??」


悪魔はフフンと鼻を鳴らして、完全に見下した目で私を見てる。



あ、悪魔!
この人やっぱり天使なんかじゃないよー!!



ひいいー!って心の中で叫びながら。この世にご降臨なさった悪魔様にビクついていると、私の携帯からメールの着信音が聞こえてきた。


慌ててカバンの中を漁るとそこに出てきた名前は「佐伯龍聖」。


受信ボックスを開けて、彼のメールをクリックすると


《ありがとう、美月。美月から誘ってくれるなんて嬉しかったよ。…って言っても優聖のヤツが強引に誘ったのかもしれないけどね。今日は21時頃店を閉める予定なんだ。腕を振るうから俺の手料理、食べに来てくれないかな。返信待ってます。》


こんな優しいメールが届いていた。



ーー龍聖……。



ただそれだけのことが嬉しくて。涙が出そうなほどに嬉しくて、そのメールをずーーっと見つめていると


「何?なんかラブラブな感じ??」


悪魔は興味深そうに、私の携帯を覗き込んだけれど…


「ダメ!これは見ちゃダメー!」


私は自分の胸に画面を引き寄せて、麻生さんからメールを隠す。



別になんてないことないメール。見る人が見ればいたって普通のメール。

だけど、こんな風に優しいメールを龍聖からもらったのは初めてだった。見ているだけで優しくなれるような、あったかい気持ちにさせられるメールは初めてだったから、それがとても嬉しかった。


龍聖は変わったのかもしれない。


にわかには信じられないけれど、そう思った。


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