砂漠の賢者 The Best BondS-3
 足への負担を軽減するためにまるで猫のように四つんばいで着地したエナに、大丈夫か、と声がかかる。

「それより、早く!」

 何を、とは言わない。
 告げる余裕は無かった。
 キャサリンが背後に迫ってくるのを感じていたから。

「そっちは任せっぞ!」

 言葉と共に黒煙を切って姿を現したのはエナの武器、三節棍。
 それを受け取り様に身体を捻らせる。
 三節棍が風を切る。
 怪鳥の長い首を抉るようにして薙ぎ倒すとエナは叫んだ。

「ラフ! 行って!!」

 それまで部屋の隅で小さくなっていたラファエルがエナの声に反応し、走る。
 体勢を立て直したキャサリンがラファエルへと鋭い嘴を突き立てようと首を伸ばす。

「させるかっ!」

 三節棍を振り下ろす。
 嘴を掠り、絨毯ごと床のタイルが割れ、怪鳥は雷にも似た声をあげて身を引いた。
 視界の端でラファエルが硝子を越えるのを捉えたエナは三節棍を構え、じりじりと後退る。
 酷使しすぎた足首の腫れが酷くなってきている。
 単なる捻挫だったはずなのに、これでは完治まで少々時間を要するだろう。
 そんなことをある意味呑気に考えていたエナは、はた、とある事に気付いた。

「…………ん?」

 脱出経路は確保出来た。
となれば、キャサリンに通機構まで運んでもらう必要などないわけで。
 ひいては、自由に飛ばせる意味も無くなったわけで。
 ゼルはキャサリンの姿を見て取り、一瞬の内に計算し穴を開けたわけだが、残念ながら鳥には羽毛がある。
見た目よりも一回り小さいのだ、実際は。
 だから万が一キャサリンが外に出るようなことがあってはならないと思い、決着をつける気で居たのだが。

「なんだ、そっか」

 つまるところ、もう一度繋ぎなおしてしまえばよいのだ。
 ゼルが表に居る以上ハセイゼンに再び首輪を外す余裕など与えないだろうし、消火活動が始まればキャサリンも焼き鳥を免れるのだ。
 繋ぎなおして、さっさとこの屋敷からおさらばしてしまえばいい。
 硝子の外からはゼルが応戦しているのだろう、剣がぶつかりあう音が聞こえる。
 繋ぎ直す頃にはおそらく一掃されている。
 エナは転がる首輪を手に取った。

――これ以上、此処に居るわけには、いかない。

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