砂漠の賢者 The Best BondS-3

「……あのさ、こーゆーの、口出ししちゃいけないんだって思うんだけどさ」

　黒い煙が天井を這う中、肩から血をだらだらと流し、黄色のドレスを朱色に染めながらエナはどうしても言いたかったことを口にした。

「こゆ趣味、どーかと思う。」

　硝子の檻に飼われている――エナに言わせれば閉じ込められている――異形の動物達を親指で指し示したエナの耳に、そのタイミングで言うンかよ、とゼルの突っ込みが聞こえたが、しかし。

「自然の形で存在出来ない命を作り出して弄ぶ権利なんて、あっちゃいけない」

　此処に居る動物達の中には突然変異で生まれたものも居るだろうが、明らかに人為的な作為を感じる動物がいた。
　片方だけに羽根を生やした馬や、足のある蛇などがそうである。

「何を言うか。これは、世界を元に戻す為の偉大な研究の第一歩となった作品だ」

「元に、戻す？」

　鸚鵡返ししながら、エナは咳き込んだ。
　体が浮いているような感覚が徐々に強くなってきている。
　傷の痛みも、もう余りよくわからない。
　それがどれほど危険な兆候であるかを知りつつ、エナは問い返さずには居られなかった。

「古の世界の存在を知らぬか。天馬が空を舞い龍が世界の調和を図る、世界が正しくあるべき姿をしていた時代のことを」

　無知を揶揄するような言葉でハセイゼンは告げた。

「りゅ、う？」

　古の時代――勿論知っていた。
　今ではもう主に伝承という形でしか伝わっていないが、世界中の書物が集まるという学問の町ランカーにそれらしき文献が二、三残っている。
　エナ自身、その文献を求めてランカーに足を運んだこともある。

「龍や天馬を、作ろうとしてるって……そゆこと？」

　問いかけながら、その答えが是と知っているだけにエナはぶるりと体を震わせた。

「やっぱり、そんなの、間違ってる」

　エナの色違いの瞳が非難を灯す。

「豊かであった時代を求めて何が悪いというのかね」

　返る答えにエナは拳を作り、勢いよく立ち上がった。

「あんたらは、あいつらの恐ろしさ知らないからっ！　だから、そんなことゆえるんだっ」

　一息で怒鳴ると、くらりと眩暈が襲った。

「あいつら……？　お前の言うあいつらとは、もしや……」

　食いつくような目でエナを見上げるハセイゼンに侮蔑も顕わな視線を落とし、エナは踵を返した。