砂漠の賢者 The Best BondS-3

「どちらがいいですか」

 エナは真っ直ぐにハセイゼンを見続けている。
 聞いているのかどうかも判断しかねる程に。

「死ぬか殺すか。どちらかしか選べない時、あなたはどちらを選ぶのですか」

 まだ彼女はこちらを見ない。
 けれど言葉に反応し、小さく息を飲むのが見えた。
 言い澱むのは選べないからではない。
 選んでいるからこそ、少女は言葉を詰まらせる。
 リゼは口元に笑みを浮かべた。

――さあ、見せてください。生に飢えた、その本性を……!

 ゆっくりと動く横顔。
 流れてくる瞳にリゼは目を見開いた。
 蒼翠の“双眸”。
 どんな宝石よりも美しい、この惑星そのものの生(セイ)なる色に一瞬、呼吸の仕方を忘れてしまう。
 射抜かれたのは、心だった。
 射殺されたのは、彼女を手に入れられるなどと思っていた浅はかな、この心。

――私には、壊せない――……。
 紅の男の言葉が今、理解できた。
 貪欲なだけでなく、それ以上の確固たる意志を持った眼差しに答えを見た、とそう思った。
 だが、ややあって返った言葉はリゼにとって予期せぬもの。

「選べない」

 少女はきっぱりと言いきった。
 その瞬間に襲うのは落胆。
 答えなど、どちらでも良いと思えたばかりだというのに。
 本性そのものの言葉でも、偽善にまみれた答えでも、彼女であればそれを許そうと、そう思ったというのに。

「つまらないことを言わないでくださいよ」

 選んでいるくせに逃げることだけは許さない。そう思った刹那。

「どっち選んでも同じ。そこに選択肢なんて、無い」

 その言葉は綺麗事ではなく。
 むしろ聞きたいと願った本性そのままの言葉であることが窺えてリゼは喉を上下させた。

「結果は変わらない、と?」

 選ばない、ではなく、真実の意味で選べないのだと、そう聞こえた。
 選ぶことすら意味が無いものだ、と。
 エナはリゼの言葉には答えなかった。
 代わりに、その瞳が応える。
 そこに感じた一つの真実。
 生きたいわけではなく、死にたくないのだ。
 そして、死にたくないのではなく、死ねないのだ。
 それは少女自身の為ではなく、少女以外の誰かの為に。
 人が一人抱くには余りに大きすぎる命への執着。
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