砂漠の賢者 The Best BondS-3
第二章『轍を越えて躓く愚かさが』
1.
その日、街は騒然としていた。
自慢話と噂話が日常を占めるその街の住人の視線を集めているのは、きらびやかに飾り立てられた二台の馬車。
高級な造りではないが、宝石を模した硝子や色とりどりの布地のドレープは、その馬車の持ち主の素晴らしい感性を印象付けた。
「ほらほら見といで寄っといで!プレタミューズで一番の雑技団アルタイルの特別公演だよ!」
止まった二台の馬車の前で、美しい中年女性が手を叩きながら声をあげた。
「お捻りは気持ちでね! さぁ踊るよ踊るよ!」
真昼間の大通り、裾の長いドレスに身を包むお茶会帰りのマダム達が足を止める。
「まぁ! アルタイルですってよ」
「ハセイゼン家がお招きしたというのは本当でしたのね」
「そうでしたの! ということは、今夜の舞踏会を彩る華ということですわね!」
囁きはすぐに広がり、馬車の前には人だかりが出来る。
「去年のプレタミューズの精霊祭の演劇をご覧になりまして?」
「勿論ですわよ。宅はアルタイルの演劇で年を越すことにしておりますの」
「素敵ですわよねぇ! まさか此処で見られるだなんて思ってもおりませんでしたわ!」
「そうですわ、スミス家の奥様も呼んで差し上げたら如何かしら」
「声をかけておかないと後から何を言われるかわかりませんものね」
興奮が興奮を呼び、人が人を呼ぶ。
色とりどりのドレスに色とりどりの日傘が大通りを占拠した。
けれど、誰も文句は言わない。
それほどにアルタイルの人気は一世を風靡していたし、何より暇を持て余す者ばかりだからだ。
「さぁさ、本邦初公開、『ラーの願い』だよ! 失敗もそこは御愛嬌。アルタイルの新作、此処にぃーかいーまーくーー!」
わぁっと拍手の波が沸き起こる。
途端、ドラの音が閑静な町並みを引き裂き、バイオリンの音色が辺りを優しく包み込んだ。
それは徐々に激しさを増し、まさにピークを迎えたかという時に急に掻き消え、二人の男が軽やかに舞い出る。
その日、街は騒然としていた。
自慢話と噂話が日常を占めるその街の住人の視線を集めているのは、きらびやかに飾り立てられた二台の馬車。
高級な造りではないが、宝石を模した硝子や色とりどりの布地のドレープは、その馬車の持ち主の素晴らしい感性を印象付けた。
「ほらほら見といで寄っといで!プレタミューズで一番の雑技団アルタイルの特別公演だよ!」
止まった二台の馬車の前で、美しい中年女性が手を叩きながら声をあげた。
「お捻りは気持ちでね! さぁ踊るよ踊るよ!」
真昼間の大通り、裾の長いドレスに身を包むお茶会帰りのマダム達が足を止める。
「まぁ! アルタイルですってよ」
「ハセイゼン家がお招きしたというのは本当でしたのね」
「そうでしたの! ということは、今夜の舞踏会を彩る華ということですわね!」
囁きはすぐに広がり、馬車の前には人だかりが出来る。
「去年のプレタミューズの精霊祭の演劇をご覧になりまして?」
「勿論ですわよ。宅はアルタイルの演劇で年を越すことにしておりますの」
「素敵ですわよねぇ! まさか此処で見られるだなんて思ってもおりませんでしたわ!」
「そうですわ、スミス家の奥様も呼んで差し上げたら如何かしら」
「声をかけておかないと後から何を言われるかわかりませんものね」
興奮が興奮を呼び、人が人を呼ぶ。
色とりどりのドレスに色とりどりの日傘が大通りを占拠した。
けれど、誰も文句は言わない。
それほどにアルタイルの人気は一世を風靡していたし、何より暇を持て余す者ばかりだからだ。
「さぁさ、本邦初公開、『ラーの願い』だよ! 失敗もそこは御愛嬌。アルタイルの新作、此処にぃーかいーまーくーー!」
わぁっと拍手の波が沸き起こる。
途端、ドラの音が閑静な町並みを引き裂き、バイオリンの音色が辺りを優しく包み込んだ。
それは徐々に激しさを増し、まさにピークを迎えたかという時に急に掻き消え、二人の男が軽やかに舞い出る。