砂漠の賢者 The Best BondS-3
「ああ、リゼ様? 構やしまへん。ママのお客様やから口説き落とそうったって靡いてくれやせん」
「お手つきになった人も居るみたいですけど、ただそれだけだもの。その後の対応は何も変わらなかったのですって」
手をぱたぱたと振りながらルカが言うと、キアラと名乗った女が肩を竦めた。
「キアラ、そないなことは言うたらあかん」
ルカはキアラを諫めたあと、ジストの顔を覗き込んだ。
「この子まだ新人なんよ。申し訳あらへんねぇ。せやけど、ほんまのこと言うたら、今日はショック受けてる子も多く居ますんや」
ルカはきちんと教育されてはいるが、基本お喋り好きな女だ。
諫めたことからもわかるように何でもかんでも話すわけではないが、情報を聞き出すには重宝する。
「知ってらっしゃるかもしれんけど、今日、ハセイゼン邸で大きな宴がありますんや。その宴、実のところ、リゼ様の嫁選びやという話でね」
この言葉を聞いた時、ジストは眩暈を覚えた。
思い過ごしであれば良い。
流石にそれは有り得ないと誰かが笑い飛ばしてくれるなら良い。
「へえ? ああいう男が選ぶ者とはどんな女性なんだろうな」
さりげなく答えを促す言葉に直ぐさま言葉を被せるのはキアラ。
「なんでも大和撫子のような、たおやかな方がお好きっておっしゃってたわ」
「……」
大和撫子、たおやか、いずれの単語もエナとは正反対の位置にある言葉だが、それとは裏腹にジストの中の不安は益々積もっていく。
えてして、こういう時の嫌な予感というのは当たるのだ。
「正反対に走る場合って意外と多いんだよねえ」
思わず口を突いて出た言葉はエナのことを考えていたからか、いつもの口調。
二人はわけがわからず頭の上に「?」を浮かべた。
「手付きになった娘、今此処に居るのか」
少なくとも、今隣に居る女よりは上流貴族との接点を重んじている女達なのだろう。
上層に行ったことのある者も居るかもしれない。
「居(オ)るけど……それがどないかしましたん? あ、もしかして気ぃ悪うしはった?」
何をどう勘違いして捉えたのか、ルカは不安げな表情で、少し汗のかいたグラスを布で拭った。