砂漠の賢者 The Best BondS-3
「元はと言えば、こちら側の配慮が至らなかったことですので、お代は結構でございます」

 完璧だな、とジストは口の中で呟いた。
 逃げ道を一つ一つ潰すマリアのやり方はジストと何処か似ている。
 ただ彼は、丸く収めるための手段を講じないだけだ。
 だから似た思考回路を持つマリアがこちらに視線を送った時には、彼女が何を求めているのかを理解した。
 面倒だな、と思いながらも一先ずマリアの意に沿うことにする。

「……俺に払わせてくれないか」

 その時の男達の驚いた顔といったら。
 まるで宇宙人でも見るような目つきだ。

「こうなったのも、俺が茶々入れたからだしな。どうせ三年来れねえんだ、絨毯だって汚れたんだし、あんたらにもマリアにも詫びなきゃ申し訳が立たない」

 若干棒読みになったのは致し方ない。
 心にも思ってないことを言わされているのだ。
 第一絨毯を汚したのは彼等であって、ジストではない。
 相手の良心の呵責を煽るためだけの言葉だ。
 責任を認めることも、自分も三年は足を運ばないと強調するような言葉も、後日彼らが怒りをぶり返すことがないように仕向けることも、余りに面倒でジストは舌打ちをしたくなった。
 だが、この店の女性から情報が引き出せなかった以上、最後はマリアに頼らねばならない。
 そう思えばこそ、ジストは店に恩を売ることにしたのだ。
 多少の面倒も仕方がない。
 既に鬱陶しいと感じているというのに、マリアは「ですが」と言い募った。

「ですが、それではこちらが申し訳ないというものです」

 はい、そうしてくださいと言えばいいものを、駆け引きを続けるマリアにジストは遂に強制終了をかけた。
 ポケットから財布を取り出し、そこから一枚の黒いカードを抜き取る。

「なら、絨毯の染み抜き代だと思ってくれればいい」

 半ば強引に渡したカードを見て男達はまた目を剥いた。
 とある専門機関に金を預け入れることで使用が可能になるカードだが、金を預けるという概念が浸透していないため、そのカード自体が珍しいのだろう。
 カードの色によって価値が変わるという事実を、おそらく男達はわかっていない。

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