砂漠の賢者 The Best BondS-3
「どうした?」
問うとルカは握り締めていた手のひらを開いてみせた。
そこには、金貨が何枚か光っている。
「ママが、こんなには貰えまへん言うて、お返しに来たんよ」
「そんなことの為に走ってきたのか」
途端、ルカは少しむっとした顔になった。
「そんなことやございまへん。次来てくれはった時でも構へんけど、ジストはん、次いつ来はるかわからへんやないの」
今日かて、前回から二年も経ってるんよ、とルカは口を尖らせた。
けれどすぐに何かを思い出したような顔になる。
「あ、あとこれママから。なんや渡したらわかるて言うてはったけど」
ドレスの胸元を探り、ルカは一枚の紙を差し出した。
四つ折にされた紙を受け取り、それを開くと、そこには薄い筆圧の線で地図のようなものが描かれていた。
なんのメッセージも添えられていないそのメモが何を表しているのかは一瞬でわかった。
行き道だ。
上層への裏の行き道。
ジストはその紙を再度折りたたみ、ポケットに捩じ込んだ。
「わざわざ悪かったな。また寄らせてもらうとマリアに伝えてくれ」
踵を返すジストにルカの慌てた声。
「ちょ…っ! ジストはん、このお代は……っ」
「言ったろう、絨毯の染み抜き代だ」
振り返らずにそれだけ答え、ジストは歩きながら煙草を探る。
取り出したその箱に煙草は一本も入っていなかったが、舌打ちする気にはならなかった。
エナに会う為には結構な金がかかるもんだ、などとのんびり思っただけだった。