砂漠の賢者 The Best BondS-3
 演目が終わり、見惚れていた女達から拍手喝采が沸き起こる。
 リゼは拍手を贈る代わりに舌なめずりをした。
 ワイングラスを二つ手に持ち、リゼは舞い終わったばかりの少女の下へと向かう。

「素晴らしい舞でしたよ」

 そう言って話しかけ、グラスを差し出すと、少女はリゼの顔を凝視した。
 見透かそうとするようなその視線に、またも背筋を興奮が駆け上がる。

「ありがと」

 短く答えたその声は、思ったよりもほんの少しだけ高い。
 黒髪と意志の強そうな目で、張りのある低めの声かと思っていたのだ。
 幼さを若干残した声は、なるほど顔立ちから見ればごく自然のものだった。
 グラスを受け取った少女は、そのまま喉へと流し込む。
 あれだけ踊れば喉が渇くのも当然だ。

「貴女は、何の目的でこちらに?」

 出来るだけ甘くて柔らかい雰囲気と声を心がけた言葉だったが、少女の体には一気に緊張が走る。
 思ったとおりだ。
 グラスの底にワインを少量残して少女はその問いに答えた。

「何見てたの? 踊りに来たに決まってる」

 そこには先ほどの肌を突き刺すような緊張感も、ましてや警戒心も無い。
 感情の波をまるごと綺麗に隠してしまっていた。

「そうでしょうか。何か用でもあるのかと思いましたが」

 言い募ると、少女は目に見えて鬱陶しそうな顔をした。

「あんたに用が無いのは確かよ」

 思ったとおりの反応に体の奥がぞくぞくする。
 この少女は愛人になりに来たわけでも、ましてや正妻の座を狙いに来たわけでもない。
 他の女とは違う。
 もっと大きくて、もっと純粋な欲望を目に宿した少女。
 その果てしない欲望に欲情した。
 知らず口元に歪んだ笑みが浮かぶ。

「貴女、私には興味ありませんか?」

「ない。」

 即座に切り返され、しかも手をひらひらと振って、あっちへ行け、と促される。
 この強い瞳を屈服させたい。
 真っ直ぐな髪を思うように乱れさせたい。
 組み敷いて、体を開いて、苦痛と快感に歪んだ顔を見てみたい。

「捜し物なら協力しますよ?」

「……は?」

 呆けて少し開いた口を犯す想像をする。

「てっきり何かを盗みに来たのかと思いまして……違うんですか?」

 その言葉に少女の表情が険しくなる。
 逆鱗に触れたらしい。
 きっと、無理矢理組み敷いた時も同じような顔をするのだろう。

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