砂漠の賢者 The Best BondS-3
「あんた、自分で何言ってるかわかってんの?」
「はい?」
笑顔で首を傾げる。
「自分の家でしょ? よくもそんなこと、言えるね」
怒りの中の諭すような感情。
――ああ、この娘はどんな顔をして懇願するのだろう。
どんな表情で、どんな声で。
それだけで、身震いしてしまいそうになる。
「……この家もモノも全部父のものですからね。私のものじゃありません」
だから、興味ないんですよ。
言おうとしたのだが、少女は最後まで聞かずに踵を返し、すたすたと歩いていってしまう。
「あれ、ちょ……」
他の女性の間をすり抜けていく少女を呼び止めた。
この、振り返った時の少女の突き刺さるような視線は生涯、忘れ得ないと思う。
威嚇というよりは純粋な威圧によって突きつけられた眼差しと、一言の下に切り捨てられる。
「つまんない奴」
目を見開いたと同時に湧き上がる息が詰まるような高揚感。
控え室に向かうつもりなのだろう少女の後ろ姿に諦め悪くも声を張った。
「パーティーも楽しんでいってくださいね」
少女はもう振り返らない。
おそらく嫌われたのだろう。
だが、その叩きつけられた嫌悪さえも興奮の材料になると知れば、少女はどんな顔をするのだろうか。
更なる嫌悪か、呆けるか。
けれど見たいのはそんなものではない。
あの瞳に絶望を見い出す為に。
そしてその絶望を越えた時、彼女はどんな色をその瞳に映すのか。
虚無か、おもねるか。
――手に、いれますよ。
小さく囁き、固く誓った。