砂漠の賢者 The Best BondS-3
「みんな、ありがと。あたしも楽しかった」
それからエナは少しばつの悪い顔をした。
「あと……ごめん。ゆっくり休憩出来なかったね」
エナの言葉に、一座には小さな笑いが広がる。
その想いを代弁するのは、やはり座長のヴィルマ。
「アルタ座はタフな奴の集まりさ。アンタが気にすることじゃないよ」
豪奢な巻き髪をかきあげて言うヴィルマは誇らしげで。
そんな一座と行動を共に出来た自分を嬉しく思った。
「ヴィルマ、ありがとね」
エナはヴィルマの手を取り、心から感謝の気持ちを述べた。
「お姉ちゃんが出来たみたいで、ほんと、楽しかった」
お姉ちゃんという言葉に気を良くしたのかヴィルマは笑みを深くした。
ヴィルマに手を引かれ、エナはそのままそっと抱きしめられる。
ヴィルマの髪が頬にあたってくすぐったい。
「……無茶、するんじゃないよ」
少しハスキーな声が愛情を含んで耳に届いた。
「……うん。大丈夫」
まるで幼子を安心させるようにヴィルマの背中をぽんぽんと軽く叩くと、少し身を引いてヴィルマの顔を覗き込んだ。
「あいつらが、無茶させてくんないの」
肩を竦めて少しおどけたように言うと、ヴィルマはエナから離れ、腰に手をあてた。
「そうだね。アンタにもし何かあっても、あのコ達ならきっと駆けつけてくるだろうね」
安心したよ、と言い置いてヴィルマは背を向けた。
「さ、出発だ。宿場町のカーラも今頃きっと元気な赤ん坊を産んでるだろうからね」
手を叩き、別れを惜しむ一座を部屋の外へと追い立てたヴィルマは振り返り、こう言った。
「ひとまず入団の話は預けとくよ。本当に退屈知らずの人生みたいだからね」
「だから、言ったでしょ?」
エナが答えると、ヴィルマは最後にもう一度唇に弧を描いて扉の外へと消えていった。