砂漠の賢者 The Best BondS-3
「あはは。そんな驚いた顔して。もう私のこと、忘れてしまいました?」
「あ、んた……」
扉に凭れ掛かっていた男はにっこりと笑った。
「良かった、覚えてるみたいですね。私の部屋にようこそ」
扉から離れる。
ゆっくりと、一歩ずつエナに近付く。
エナも瞬間的に立ち上がり、構えるが、足の痛みがどうも邪魔だ。
かなり広い部屋。
本棚がズラりとならび、分厚い本が仕舞われているのがわかる。
すぐ横には大きなベッド。
通気孔から少し斜めに飛べば届く場所にある。
大きな机の上には紙が散乱したまま放置している。
今更目が利くようになっても余り意味は無いのだが。
「足、大丈夫です? こんな無茶しなくても私に一言くれれば連れてきてさしあげたのに」
「恩を借りるのは嫌いなの」
挑むような目で睨む。
「特に、あんたには」
普通ならば気圧されてしまうだろうその瞳は、今は彼を煽るだけの効果しかもたない。
「貴女、私には、興味ありませんか?」
優しそうな声と喋り口調。けれど、目は全く笑っていなくて。
余裕ぶった態度が癪にさわる。
「たった今、大っ嫌いにランクアップよ」
何処かの誰かにそっくりだ。
顔は違えど、口調は違えど、その雰囲気が。
出会った頃の彼に類似している。
紅を纏う男――ジストに。
「あはは。嬉しいなァ」
けれど、違う。
ジストはここまで陰気じゃない。
見下しているのを隠そうともせず、男は更に距離を詰める。
「近寄んな」
「それは無理ですね」
エナが溜め息を吐く。
そして、肩の力を抜いて構えをといた。
足が痛くて、真っ向勝負は不利だと判断した為だ。
「恩、売らせてあげてもいいけど?」
「私の恩は高いですよ?」
エナは顎で自分の足元をしゃくった。
「この際、仕方ないでしょ。足痛いの。手、かして?」
協力しろ、という意味ではない。
相手がどう取るかは知ったことではないが。
「勿論ですよ」
よろしく、と言ってエナが右手を差し出す。
男がそれに応えた……瞬間。