砂漠の賢者 The Best BondS-3
 言い聞かせて、目の前に立ちはだかる扉を睨みつけた。
 自分に出来ないことは、他人にやってもらえばいい。
 その為に人は十人十色に出来ている。
 だが、自分に出来るかもしれないことまで他人に任せてしまうのは依存だ。
 押しつける為に他人が居るわけではない。
 補い合う為に他人が居るのだ。
 まずは、自分で出来る限りのことを、できるだけ。

「……とはいえ、どーすりゃいいのこれ」

 ぼやいて石壁に凭れかかる。
 と、背中に違和感。

「?」

 何か突起物に触れたと思った瞬間、今までびくともしなかった扉がぎぎぎ、と音を上げた。
 驚いて跳ね退いたエナはすぐさま燭台を持ち、石壁を確認した。
 そこには石壁に紛れるように非常にわかりにくい色のスイッチがあった。
 エナは開き始めた扉を見る。
 扉は押すでもなく、引くでもなく、かといって横に開くでもなく、上へと持ちあがっていく。

「……そーきたか……」

 道理でびくともしないわけだ。
 光と共に地下ならではの、湿り気を帯びた冷たい空気が流れだしてエナの髪を煽った。
 光が徐々にエナの体を這い上がる。
 その光が目に到達した時。
 エナは目を大きく見開いた。

「――!」

 広い、広い。
 屋敷の地下全部使ってるんじゃないかと思える程の広さ。
 大の男五人程が並んで歩ける通路と、ガラス張りのいくつもの部屋。
 その部屋の中で、見たこともない生物が雄叫びをあげる。
 馬のような形をしているのに獅子のようなたてがみを持った生き物。
 サイのような形をしているのに全身真っ黒の長い毛で覆われた生き物。
 鎖で繋がれているのは、鳥のようだけれど鋭い牙と大きな口を持った三つの頭を持つ怪鳥。
 エナが入ってきたことで、動物達が一斉に鳴き始める。
 トカゲなのかサンショウウオなのかわからない生き物がイグアナのように襟巻きを広げ、孔雀のような鳥はコウモリのように骨ばった羽を広げた。
 威嚇か、それとも餌でも貰えると思っているのか、そのけたたましい声からは汲み取ることが出来ない。

「なに、此処……」

 ガラス越しでも響く声。
 呼応するように広がっていく鳴き声は、この室内に一体どれ程の数の動物が居るのかというのを漠然と考えさせられた。
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