砂漠の賢者 The Best BondS-3
 それもおそらく、ここに居る生き物は全て突然変異や、遺伝子操作の果てに生まれたような、見たこともない生き物ばかりなのだろう。
 ラフは普通の犬なのに、とエナはぼやく。
 確かにラファエルのような犬種は見たことがない。
 肩に乗るほどの大きさで、真っ白な毛は緩やかな癖があり、首元と尾っぽが一際長い。
 鼻は長くもなく短くもなく、もうすっかり成犬だというのに仔犬のような顔立ちをしている。
 チワワに似ているといわれれば似ているような気もするが、体の割に長めの足に折れそうなひ弱さはないし、目も其れほど離れていない。
 けれど雑種の犬など珍しくもなんともないだろう。
 鳴き声はさておき。

「ラフ! 何処ー!?」

 これだけぎゃあぎゃあ騒がれたなら、静かに動いても無駄だと悟り、エナは口に手を添えて呼び掛ける。
 だが、何処かに居る筈のラファエルに聞こえたとしても、エナにはラファエルの声は届かない。

「ラフー! ラファエルー!! ああもう! あんたら五月蝿いっ!! 静かにしろーっ!!」

 一緒になって喚いたところでどうしようもないことを知りつつも、エナはガラスに拳をぶつけた。
 通路に沿って歩いていくと、この部屋の不思議さに気付く。
 通路は何メートルか毎に碁盤の目のように規則正しく作られているのだが、ガラスの部屋に出入口らしきものは見当たらず、場合によっては通路に面していない部屋だってあるのだ。
 エナでなくともその異常さに気付くだろう。
 つまり、ラファエルを見つけたところで、そこから救出するためには更に頭を悩ませなければならないということだ。
 高い天井を見上げると、自分が如何に長い階段を下りてきたのか嫌でも思い知らされる。
 そこに埋め込まれる円形の大きな人口灯は真っ白な光を惜しみなく浴びさせ、動物たちの声の合間には機械音が混じる。
 おそらく、一つ一つの部屋に伸びるダクトによってガラス内は空調が利いているのだろう、聞こえる機械音はきっとその為だ。
 金持ちの道楽とは、なんとも理解し難いものがある。
 否、人の趣味さえ理解出来ないのに、更に金を持たせると碌なことが無い、という一例だ。


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