砂漠の賢者 The Best BondS-3
 建物自体の洋館とは全く異なった様相を見せるその場所は、無機質で冷たく、病院だとか博物館だとか、そういうものを思い起こさせた。
 床には屋敷上部と同じ、上質と一目でわかる赤い絨毯が敷かれていたとしても、その雰囲気は温かみとは一切無縁だった。
 その絨毯のせいで床のことはわからないが、ところどころガラスの内側に血が飛び散っていたりすることから、肉食の動物も少なくないらしい。
 動物達は鎖に繋がれていたりいなかったりと様々だが、こんなところに長時間居たのでは、ラファエルの気が狂ってしまう。
 先ほど無理に力を入れたせいか、足首の状況は明らかに悪化しているが、エナはそれでも歩調を速めた。
 行く先は決まっていた。
 硝子張りの部屋の中でただ一つ、天井に向かって伸びる柱。
 それはエナの目線の先にあり、何か書かれた紙かパネルのようなものが取り付けられている。
 遠目からでははっきり窺い知ることは出来ないが、色や形からエナはそれをこの地下の見取り図だと判断したのだ。

「……やっぱり」

 近づくにつれ、予想が間違っていなかったことにエナは呟いた。
 淡い光を放つそれは電光掲示板だった。
 トルーアや、エナが生まれ育った町には無縁の代物。
 エナも実際に見たのはこれが初めてだ。
 人間離れした視力を持つエナは到達するまでに解読を始める。
 見取り図に描かれた硝子のほとんどにはそれぞれ四桁の数字が割り振られている。
 開閉する、という入力キーがあることから、おそらくその為の数字だ。
 赤い部屋、青い部屋、黄色い部屋と何の光もついていない部屋の四種類。
 これも、辺りを見渡すことでその意味は自ずと知れた。
 赤は肉食獣の部屋。
 青は草食動物。
 黄色は一室に多種の動物が混在し、何の光もついていない部屋は空き部屋だ。
 食のラファエルは何処に分類されるのだろうか。
 柱の前に辿り着いたエナは頭を捻りながら、電光掲示板に指を伸ばす。
 画面の右下に表示された「メニュー」を押すと画面がパっと入れ替わった。
 いくつかの項目の一つ、入手情報を押すと更に画面が変わり、日付の一覧がずらりと並んだ。
 その中の一番上、今日の日付に『犬―三二六』とある。

「犬の三二六番……ね」

 十中八九、ラファエルだ。
 その横の検索ボタンを押してみると、見取り図の部屋の一室がちかちかと点滅した。
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