砂漠の賢者 The Best BondS-3
「……あれ?」

 その場所を見て、エナは首を傾げた。
 光るその部屋は、地下に降りてきてすぐ左の部屋だったのだ。
 確か、その部屋には大きな怪鳥が居たと思うのだが。
 最初の画面に戻すと、その部屋は黄色に光っていた。

「あの鳥と相部屋ですか……」

 手前に居た怪鳥の体に隠れて見えなかったのだろう。
 そういえばあの鳥は首輪を付け、鎖で繋がれていた。
 相部屋だったからだと合点がいく。
 エナは頭を掻き毟った。
 手前に居るのが如何にも獰猛(ドウモウ)です、といった雰囲気の鳥なのだから、一番簡単に辿り着ける筈のガラスを開閉することは出来ない。
 青、もしくは黄色の部屋だけを辿り、ラファエル側からの硝子を開けなければならないのだ。

「めんどくさ……」

 開閉にあたっての注意書きに目を通したことで、その気持ちは更に膨れ上がる。
 ここのパネルから一度に開けることが出来るのは五回まで。
 他八箇所に設置されたパネルから開けることが出来るのが三回。
 単純に考えて一区画につき、十五前後の部屋があるというわけか。
 エナは見取り図を見ながら、最初に開ける硝子の番号を五つ入力した。
 鉄の扉が開いた時と似たような音をたてて、ガラスが下がっていく。
 意外にも早い速度で上下する硝子の音を背に、エナは更に次の三つの数字を頭に叩き込もうと目を凝らす。
 と、そこへ。
 幾多の足音が聞こえた。
 黄色の髪を扇状に広げてエナは振り返る。

「げ。」

 真っ黒でかっちりと襟の高い服装はこの貴族の町ノービルティアを監視し、統括する警備隊の制服だ。
 まるで、軍隊のような集団である。
 偃月刀と呼ばれる湾曲した剣を帯びるその者達の数はざっと十名を超える。
 それに引き替え、こちらの武器は小さなナイフと燭台のみ。
 おまけに手負いの状態だ。
 やりあうのも馬鹿馬鹿しい程の不利。
 エナは残りの数字を覚える為に再度、画面に目を戻す。

「ちっ」

 思わず、舌打ちが突いて出た。
 振り返る時に、何処かを押してしまったのか、全く関係ない画面が表示されている。
 今更、弄り直す時間は無い。
 エナは踵を返し、走り出した。
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