砂漠の賢者 The Best BondS-3
 突進するようなエナに警備隊の男たちは腰に止めていた剣を、巻いていた皮紐ごと切って手に収める。
 白い光に照らされて、その太い刃がぎらぎらと光を放った。
 足の痛みを無視して走ったお陰で、警備隊とかち合う前に目的の区画への道を曲がることが出来た。
 偏(ヒトエ)に、エナの身体能力故だ。
 脇目も振らず、エナは一目散に開けた硝子部屋へと飛び込んだ。
 更に走る、走る、走る。
 相部屋には肉食獣も紛れていたが、鎖がぎりぎり届かぬ場所を駆け抜けた。
 第二の柱に辿り着いた時、エナはようやく振り返る。
 警備隊は追ってこない。
 最初の硝子の部屋の前で留まっている。

「!」

 そこで、エナはようやく気付いた。
 彼らの目的は端から追い詰めることではなかったということに。
 エナが開けた硝子が閉じ始める。

――やばっ!

 つきりと足が痛む。
 心臓が、足首にあると錯覚しそうだ。
 痛みに汗を滲ませてエナは、もう到底ジャンプでは越えられない高さまで上がった硝子を見上げた。

「この為の、回数制限だったんだ……」

 第一のパネルで五つ。第二のパネルで三つ。
 第二のパネルがある場所からどうやって三回開けても、元の場所には戻れない。

――閉じ込められた……!

 エナは、ぎり、と奥歯を噛み締めた。
 エナという人間さえも囚われ飼われる箱の見世物。
 それでも前に進むしかない。
 戻れなくても、せめて前へ。
 戻れないから、せめて前へ。
 エナはパネルをきつくきつく睨みあげた……――。

< 90 / 147 >

この作品をシェア

pagetop