砂漠の賢者 The Best BondS-3
「エディの剣士が何故こんなところに!?」

 噂に尾びれがついていようが、警備隊の士気が下がるのは有り難い。
 千載一遇の好機と見るべきだ。

「そっちが来ねェなら、こっちから行くぜ?」

 いかにも強者と匂わせる言葉を放ち。
 ゼルはエディを一閃させた。

「!」

 その剣が描く光の軌跡に男達は息を飲んだ。
 エディは空を切った。
 だが、その数瞬の後。

「……ぐっ」
「ぅああああっ!」

 幾人かの男達が声を上げてその場に崩れ落ちた。
 その他の男達が瞠目する気配にゼルは唇の端を吊り上げた。

――演出にゃあ、バッチリだろ。

 命を奪う程深手ではないが、切っ先も何も全く触れずに傷を負わせた。
 その事実に男達は更に一歩後退した。ゼルの思惑通りに。
 驚愕を映した瞳が一斉に注がれる。
 ゼルはもう、この場の雰囲気を呑み込んでいた。
 ゼルがエディを持った手首をかえす。
 何をするわけでもない、ただそれだけの動作で男達はゼルの為に通り道を開けた。
 侵入者に道を開けるとは、なんとも情けない話だ。
 だが、これは案外楽にエナの元に辿り着けるかもしれない。
 そんなことを考えた矢先。

「不甲斐ない奴らだ」

 男性のものではないが、女性のものとしては少し低めの意志が強そうな声が凛と響いた。
 その瞬間、逃げ腰になっていた警備隊の背筋がぴんと伸びる。
 警備隊がゼルの為に開けた道を静かに歩んでくる、長身の女。
 耳がかろうじて隠れる長さの髪は燃えるような橙(ダイダイ)色。
 横に分けられた長めの前髪から覗くのは、紺と見紛う深い深い紫水晶の瞳。
 ゼルは大きく目を見開いた。
 その様子に女は端正な顔立ちを少し崩して喉で笑った。

「久方ぶりだな」

 堅い物言いの女に、ゼルは左手の人差し指を突き付けた。

「お、おま……! なんでこんなトコに!?」
「それはどちらかと言うと私の台詞だと思うのだがな」

 二人のやり取りに男達も状況が掴めずぽかんとしている。

「一年半ぶりになるな。元気にしていたか」

 女が目を細めて問う。

「ま、まァな」

 まだ驚きが収まらないゼルは何とかそう答える。
 女は表情を弛めて左目にかかる前髪を掻き上げた。

「そうか、ならば良かった。お前の故郷の話は聞き及んでいたのでな、これでも少々心配していたんだ」
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