死と憤怒
「何を偉そうに。」
タナトスは鼻で笑って鎖を引き寄せた。
「ぐっ、うわぁあああああ!!!」
断末魔が響き渡る。
「ローレンス!!」
ヴォルフラムはローレンスに駆け寄る。
彼に触れる寸前で、視界が鮮血に染まった。
まるで、水風船のように目の前で友が破裂した。
「い、い……いや、いやぁああ!!」
メアリーが泣き叫ぶ。
「煩い。」
その言葉と共に、メアリーは地面に倒れた。
「メアリー!」
ヴォルフラムはメアリーの駆け寄る。
彼女は息をしていなかった。
愕然として目を見開くヴォルフラムをタナトスは愉快そうに見る。
「これがサタン。罪深きものへの罰だ。」
アズライールは冷酷に告げる。
「……恥を知れ。」
ヴォルフラムはゆっくりと2人の方を睨んだ。
纏う雰囲気はまるで彼ではないようだ。
地獄の底を知るもの。
罪人のようだった。
「命を弄ぶことが罪人への罰だというのか。」
ゆっくり歩み寄るとアズライールを見た。
「偉そうに。罪人風情が。」
アズライールは剣を構えた。

——深い闇。
血溜りの中にヴォルフラムとそれによく似た男。
男は言う。
『貴様は戻りたいのか?』
同じ声音で問う。
漸く解った。
『最初の俺、か。』
『ああ。』
ヴォルフラムは目の前の男を見る。
『貴様もまた、最初の魂だ。』
そう告げると歩み寄る。
『貴様は輪廻の中に生きることになる。』
『親しいものが死んでいくことか。』
『そして、自分は死んでも転生し続ける。』
その言葉にヴォルフラムは受け入れられないような表情でいる。
『サタンという罪人へ戻るならば、この輪廻を終わらせられるかもしれない。』
『それは、俺が消えることか。』
『そうだ。』
ヴォルフラムはこれ以上失いたくないという表情で目の前の男——サタンを見る。
『解った。』

ヴォルフラムはアズライールを見る。
「憤怒の罪人の能力は神の恩恵の拒絶。天使に敵うものか。」
「器の分際で。」
「どうだろうな。」
アズライールに嘲笑するものは地面を蹴る。
その瞬間、タナトスが目を見開く。
彼の姿が変わった。
硝子のように身体が砕け、入れ替わるように見知った姿が現れる。
「……サタン。」
タナトスが呟く。
アズライールの剣をサタンは素手で受け止める。
そのまま、剣を折る。
「神の恩恵で出来た剣で殺せるとでも?」
「……っく、」
アズライールは攻撃を躱す。
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