死と憤怒
——まだ、小さな頃。
善も悪もわからず、感情のままに行動するような年齢。
癇癪を起こしては暴れて、あたり構わずに手を上げたのは記憶によく残っている。
そして、その度に怒鳴られたことも。
激高した父から暴力を受け、全治一週間の大怪我を負ったときには役人が来た。
虐待ではないかなどの尋問を受け、施設へ預けられたこともあった。
母は疲れた顔をしていた。
父は叱咤し、感情を押さえ付けるかのようにヴォルフラムへ教育する。
それでも、母だけは感情ごと愛していた。


今も同じだ。
父は感情を押さえつけ、母は愛する。

愛情は二人共同じくらいヴォルフラムへ向けているのだが、そこだけは決定的に違った。
だから、父へは感情を表せない。

その日は日が暮れるまで書庫に居た。


夕飯の支度が出来たと母から言われ、食事をとる。
この屋敷には“離れ”と“本邸”があり、ヴォルフラムが呼ばれるのは離れだ。
家族構成は両親と兄弟が居るらしいが、兄弟との記憶はない。
時折、女の子や青年などが来るが兄弟とは断定出来ない。
どうやら、感情の起伏により危害を及ぼすという理由でずっと離れに隔離されているらしい。
(疎外感、か。)
そんなものは慣れっこだ。
彼は吸血鬼とされているが、母親は“狼族”という人間の一族で父は“鬼神”と言われる種族だ。
兄弟にも吸血鬼は居ない。
とはいえ、正真正銘の家族なので身内には些細な問題だという。
種族により、法が異なる為、戸籍上のどの種族で区切られるかは血統や能力、先天的性質により判断される。
祖父母、先祖、呪い、環境などにより、両親と異なった種族が生まれることも不思議ではない。
その場合、遺伝子には両親の血統が受け継がれている為に、混血となる。
(今更なことだ。)
文献で知っているヴォルフラムは特に気にする様子もない。


翌日、学校へと鞄を持って出かける。
「フラン!」
少年が声をかける。
「あぁ、ローレンス。」
ヴォルフラムは無表情で応える。
「何だよ、湿気た面だなぁー!」
「そう言う貴様は相変わらずの様子で何よりだ。」
「おう!」
ローレンスと呼ばれた少年は笑ってヴォルフラムの背中を叩く。
「血が足りないのか?」
「馬鹿を言うな。貴様が元気過ぎるんだ。」
ヴォルフラムは心外そうに言う。
「ふーん。血が足りないなら」
「貴様のは要らない。」
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