死と憤怒
「うわ!ひとが親切にしてるのに。」
「頼んでない。」
そんなやり取りをしながら登校した。

「ローレンス。」
不意にヴォルフラムがローレンスを呼び止めて眉間にシワを寄せる。
「お?」
ローレンスは少し先を歩いていたことに気が付いて足を止めた。
「……」
その影に隠れるようにして、ヴォルフラムはローレンスの後ろへ回る。
「ん?」
怪訝そうだったローレンスだが、直ぐに理解した。
その向かいから、桃色の髪の少女が歩いてくる。
勝気そうな顔で此方を見る。
「あら、そこに隠れているのは誰かしら。」
少し怒ったように言った。
「ローレンス。」
ローレンスを睨みながら、“どいてくれる?”という視線を送る。
「ふ、フラン。」
「……」
“いやだ”と首を振りながらも、ローレンスがかわいそうだという人情が働き、渋面で決意を固めた。
「お、おはようございます。」
「おはよう。最初からそうすればいいのよ。」
父に接するような無表情さで挨拶を交わす。
少女は満足気だ。
この少女に良い思い出がない。
勝気で、常に先を行く彼女に纏う威圧感も好きじゃない。
まるで父のようだと思う。
それなのに、それを解った上で接してくるのだ。

彼女はメアリー。
ヴォルフラムの許嫁らしい。
家同士が勝手に決めたことだ。
話に聞くには、メアリーの見合い候補として提案され、話を聞いたメアリーが気に入ってしまったという。
一体、どの辺が気に入ったかは不明だがそれ以来は粗相がないようにと言われている。

容姿端麗、成績優秀、運動は標準程度だが、完璧な才女と言える。
家系としても、申し分ないくらいだ。
このまま上手く行くことが悲願だろう。

「許嫁なのだから、挨拶くらいしなさい。」
「はい。申し訳ございません。」
ヴォルフラムは静かに謝る。
「もういいわ。挨拶したかっただけだから。じゃあ。」
メアリーは去って行く。
「……はぁ。」
ヴォルフラムは姿が見えなくなったことを確認して息を吐く。
(息が詰まる。)
何処かへ消えていければいいのにという考えが過る。
父も許嫁も居ない場所に行ければ良い。
「フラン。」
ローレンスが肩を叩く。
「ん?」
我に返ったようにヴォルフラムは瞬きをする。
(あぁ。)
やはり、此処に居た方が良いなと思い直した。
(ひとりは、さびしいからな。)
不意にひんやりした感触がした。


脳裏に映る光景。
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