死と憤怒
——深い闇。
血溜りの中にヴォルフラムとそれによく似た男。
男は言う。
『貴様は戻りたいのか?』
同じ声音で問う。
(戻る?)
何を言っている。
血溜りは徐々に水嵩を増す。


「!!」
思わず後退りした。
「どうした?」
ローレンスが不思議そうにする。
冷静になって見れば、辺りはいつもの光景だ。
(……寝ぼけているのか。)
溜め息混じりでそう思う。
「寝ぼけているだけだ。」
冷静に言う。
「そっか。」
言及はせずにローレンスは笑った。


教室に入れば嘲笑が彼を迎え入れる。
「やい、他人子。」
そう言うと下品に笑う少年。
ヴォルフラムと変わらない位の体格だ。
吸血鬼とは、この世界において人間の次に多い種族だ。
その中には混血種と純血が居る。
混血種には様々な種族があり、その定義は性質や能力、気質や外見などだ。
極希に家族同士で異種族となる場合もある。
その場合、“他人の子”だという差別表現が“他人子”という言葉を生んだ。
「てめぇ」
「ローレンス。」
嗜めるようにローレンスを牽制した。
「事実を否定出来はしない。反抗するな。」
ヴォルフラムは無感情に言う。
「今において重要なことは、下らぬ戯言か?」
「フラン」
「貴様にはやるべきことがあるはずだ。」
反論しようとしたローレンスにヴォルフラムは少年を一瞥して言う。
「課題。」
その言葉に場が凍った。
「あ。」
少年とローレンスが声を揃える。

授業が始まり、教師が教壇に立つ。
「課題を回収します。」
その言葉にローレンスと今朝の少年は顔を見合わせる。
そして、ローレンスはヴォルフラムを見た。
「ん。」
ヴォルフラムは教師に見えないように紙を渡す。
少年がそれを見て叫ぶ。
「先生!ヴォルフラムとローレンスが」
「俺がどうかしたか?」
ヴォルフラムはいつの間にか席に座り、無感動な目をしている。
「今、何か渡したろ!」
「あぁ。研究に使用した資料だが。」
「嘘つけ!」
「課題を忘れたからといって、八つ当たりは見苦しい。」
少年にヴォルフラムとローレンスは真顔で言い返す。
もちろん、少年が見た通りにヴォルフラムがローレンスの課題もして渡していたのだが。
今朝のヴォルフラムの発言で忘れたことに気付いたローレンスがヴォルフラムに泣きついてきたのだ。


『課題なんだっけ。』
『昔の伝記や伝説、言い伝えについてだろう?』
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