死と憤怒
ひたひたと近づく骸の群れ。
「私は、永劫に許さない。」
何度も聞いた憎悪の声。
嘗ての罪が鎖となって、足に絡む。
“嘗て”の……
(そうか。)
「知っている。」
思い出した。
「俺は、」
それ以上思い出したくない。
知りたくない。
「俺はずっと、見えないふりをしてきただけだ。」
言葉がこぼれた。
「タナトス。」
鎖に触れて、名前を呼んだ。
「あら。」
女が笑う。
「思い出してくれたの?うれしいわ。」
ふふふと笑った女はその名を肯定する。
「憤怒の罪人。“サタン”……貴方は、その器。罪人の力を持ったひと。」
タナトスはヴォルフラムに近付く。
「愛されるだなんて勘違いしないことね。」
嘲笑する。
「知ってるでしょう?貴方の大事なひとは皆死んでしまうのよ。」
何度も反芻していた言葉。
「私は貴方を許さない。」
そう呪うように吐くと骸が這い上がり、身体を蝕んだ。
——目覚めると自分の部屋だ。
前後の記憶は定かではない。
だが、あの幻想だけははっきりと覚えている。
「ヴォルフラム。」
ローレンスが心配そうに此方を見ている。
そこで初めて、この部屋にローレンスが居ることを認識した。
僅かに血のにおいがする。
「……また、危害を加えたのか?」
予感を疑問にする。
「何、大したことはない。」
ローレンスはヴォルフラムを撫でる。
まるで、子供をあやすような優しさで“大丈夫だ”と言う。
『愛されるだなんて勘違いしないことね。』
タナトスの言葉が反芻する。
「ローレンス。」
ヴォルフラムはローレンスの手を振り払おうと、袖を握った。
それは助けを求めるようでもあった。
「俺は貴様を……いいや、貴様だけではない。周りのものを殺してしまう。だから、もう、関わらないでくれ。」
苦しそうに言う姿は袖を握ったままだ。
「いきなりどうしたんだ?」
ローレンスは不可解そうだ。
「お願いだ。」
ヴォルフラムは縋るように言った。
そして、袖から手を離す。
「俺は、誰も殺したくない。」
「どういう意味だよ。お前、今日は殊更におかしいぞ?」
「——頼む。お願いだ。」
「悪い夢でも見たのか?」
切実な願いに首をかしげた。
ここ数日の取り乱れようとは違うような気がして、ローレンスはヴォルフラムをじっと見詰めた。
「ひとりがいい。誰とも、誰も……」
怯えるように祈るように言った。
「私は、永劫に許さない。」
何度も聞いた憎悪の声。
嘗ての罪が鎖となって、足に絡む。
“嘗て”の……
(そうか。)
「知っている。」
思い出した。
「俺は、」
それ以上思い出したくない。
知りたくない。
「俺はずっと、見えないふりをしてきただけだ。」
言葉がこぼれた。
「タナトス。」
鎖に触れて、名前を呼んだ。
「あら。」
女が笑う。
「思い出してくれたの?うれしいわ。」
ふふふと笑った女はその名を肯定する。
「憤怒の罪人。“サタン”……貴方は、その器。罪人の力を持ったひと。」
タナトスはヴォルフラムに近付く。
「愛されるだなんて勘違いしないことね。」
嘲笑する。
「知ってるでしょう?貴方の大事なひとは皆死んでしまうのよ。」
何度も反芻していた言葉。
「私は貴方を許さない。」
そう呪うように吐くと骸が這い上がり、身体を蝕んだ。
——目覚めると自分の部屋だ。
前後の記憶は定かではない。
だが、あの幻想だけははっきりと覚えている。
「ヴォルフラム。」
ローレンスが心配そうに此方を見ている。
そこで初めて、この部屋にローレンスが居ることを認識した。
僅かに血のにおいがする。
「……また、危害を加えたのか?」
予感を疑問にする。
「何、大したことはない。」
ローレンスはヴォルフラムを撫でる。
まるで、子供をあやすような優しさで“大丈夫だ”と言う。
『愛されるだなんて勘違いしないことね。』
タナトスの言葉が反芻する。
「ローレンス。」
ヴォルフラムはローレンスの手を振り払おうと、袖を握った。
それは助けを求めるようでもあった。
「俺は貴様を……いいや、貴様だけではない。周りのものを殺してしまう。だから、もう、関わらないでくれ。」
苦しそうに言う姿は袖を握ったままだ。
「いきなりどうしたんだ?」
ローレンスは不可解そうだ。
「お願いだ。」
ヴォルフラムは縋るように言った。
そして、袖から手を離す。
「俺は、誰も殺したくない。」
「どういう意味だよ。お前、今日は殊更におかしいぞ?」
「——頼む。お願いだ。」
「悪い夢でも見たのか?」
切実な願いに首をかしげた。
ここ数日の取り乱れようとは違うような気がして、ローレンスはヴォルフラムをじっと見詰めた。
「ひとりがいい。誰とも、誰も……」
怯えるように祈るように言った。