死と憤怒
何度も、拒絶の言葉を反芻する。
「ひとりにはさせないわよ。」
そう声がして、扉が開かれた。
「言ったでしょう?感情ごと愛するって。殺されるなんて、怖くないわ。」
入ってきたのはメアリーだ。
「貴方ならば。」
メアリーは微笑む。
「母は、そのせいで疲れてしまった。」
「そうとは誰も言っていないわ。」
「けれども、母が死んだのは俺のせいだ。」
メアリーはヴォルフラムの表情を真っ直ぐに見る。
「貴様を、うしないたくない。」
泣き出すような顔をして言った。
「馬鹿ね。」
メアリーはヴォルフラムを抱きしめる。
「私はいつでも傍に居るわ。」
「やめろ。」
「やめない。」
はっきりと言う。
「貴方がどんなに嫌がってもやめてあげない。」
“出来るものなら逃げてみなさい”と挑戦的に言った。

『愛されるだなんて勘違いしないことね。』

タナトスの声がする。

『貴方を許さない。』

憎悪と薄氷がひたひたと近付く。

母の傍らにあった林檎の音がする。

“ゴトッ”

それは、林檎から髑髏に変わる。

「メアリー」
ヴォルフラムは生存を確認するようにメアリーに触れた。
「貴様が生きているうちに、貴様から離れなければならない。」
「まだ言うつもり?」
「俺は愛されてはいけない。」
「それは貴方が決めることじゃない。」
メアリーは威圧的に言う。
「愛されるだなんて選択して受け入れるものじゃないわ。」
その言葉にヴォルフラムは悲しげに睫毛を伏せた。

脳裏に走馬灯のようにいくつもの映像が流れる。

『どう、して……』

泣いている女。

『貴方を、許さない。何度でも失い、何度でも死んで、何度でも絶望するがいいわ。』

そう呪う声。

『愛されるだなんて勘違いしないことね。』

嘲笑

『さぁ、行っておいで。』

そう、手を差し伸べたのは白銀の美しいなにかだった。

『貴様は戻りたいのか?』

その問いは前世の姿だという意味か

憎まれる前だという意味か

「俺は生まれる前から罰を受けるべき者なのだ。」
ぽつりと言う。
ローレンスは訳が解らない様子で居る。
メアリーはそれに対して怒りを覚えたが、それを飲み込んだ。
ヴォルフラムの頬を緋い血が伝う。
溢れる激情はメアリーを捉える。
「殺してくれ。」
そう言ったのはメアリーに対してではない。
償うべきもののため。
犯した罪を許してもらうため。
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