きみが教えてくれた夏
「遅い。待ちくたびれちまったよ」



海音がケラケラと乾いた笑いを浮かべた。
その割には疲労の色をしてない。



「ほれ、これでも飲み」



そう言って私に水の入ったペットボトルを差し出してくれた。
受け取るとひんやり冷たくて、このペットボトルに張り付いてしまいたいと思った。


ごくり。


喉を通る冷たい感覚。
暑さも手伝ってか東京で飲む水よりもはるかに冷たい。


美味しい。



「ありがとう、生き返った」



満タンまで入っていた水はあっという間に空になった。
海音は私から空になったペットボトルを預かると隣に止めてある自転車のサドルをぽんぽんと叩いた。



「ほれ、行くぞ」



これは、乗れってことなのか?
海音は笑顔でサドルを叩く。



「何してるんだ、ほれ、早く行かねえと日が暮れちまう」



海音はそう言うと私の手を引っ張った。
その反動で海音の胸に倒れこむようになってしまった。



どきどき。


あたふた。


初めて感じる感覚が体中を支配する。
体の中に別の何かがいるみたいに全身を駆け巡る。



「お、お願いします」



ぎこちない手つきで自転車の後ろに腰掛ける。
海音がにぱっと笑って私の手を掴んだ。
その手が自然と海音を抱きしめるように包み込む。



「行くぞ」



海音が地面を蹴った。
ゆっくり、ゆっくり自転車が走りだす。


少し古いためかぎこぎこと音が鳴る。
重さは倍なはずなのにだんだんスピードが上がっていく。



どきどき。


どきどき。



夏の匂いときみの匂いが混ざってなんだか少しくらくらするよ…。
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