きみが教えてくれた夏
がたん。


がたがたん。


がたがたがたん。



でこぼこした田舎道。
二人分の重さ。


疲れないのか。
暑くないのか。
心配はしてみるものの一回も休憩を取ろうとはしない。


ただひたすらにがたがたんを繰り返す。
自転車を運転してもらっているお陰で暑くはないけど、海音のお腹に巻いた手が熱くて仕方ない。



「なぁ」



ふいに海音が声を掛けてきた。



「ん?なに?着いた?」



景色は変わらずの田んぼ道。
まさか、ここが見せたかった場所なのだろうか。
だとしたら確実に殴る。



「未来は夏は好きか?」



は?



「夏は好きか?」



ぎこぎこ自転車を漕ぎながら訊ねてくる。
前を見たまま振り返りもしない。



夏は好きか?



「嫌いよ」



私がそう言うと海音は。



「そうか」



と、一言呟いた。
その声はどこか寂しそうで。
どこか悲しそうで。



「海音は?」



私が聞き返す。
そしたら。



「俺は大好きだ」



弾んだ口調でそう答えた。
そりゃ、海の音で海音なぐらいだから好きなのも分かる気がする。


なにより、笑顔が真夏の昼にキラキラ輝く太陽のようだから。



「未来はどうして夏が嫌いだ?」



質問が多い人だなあ。
そんなの。



「暑いし、蝉は煩いし、汗で体がベタベタするし」



あとは。
これ以上は口を噤んだ。



「そうかぁ」



海音が呑気そうに相づちを打つ。
海音は如何にも夏の少年ですって格好をしているのにいつも汗一つかいていない。


それに比べて私は常に汗が体に滲んでいて。
それだけ海音の服の通気性が高いのだろうか。



「なら、俺が夏休みの間で未来に夏を好きになってもらう」



え。
今、なんて言いました?



「未来に夏の楽しさを教えてやる」



にこにこ。
きっと彼は笑っているだろう。
顔は見れないけど容易く想像がついてしまう。



「いいよ別に。嫌いなら嫌いなままでもいいんじゃない?」



私がそう言うも海音はふるふると首を横に振る。



「だめだ、未来に夏を好きになってもらう。俺がいっぱいお前に夏の楽しさを教えてやるから」



にこり。
やっぱり彼は笑っていた。
振り向きざまに見た太陽みたいな笑顔。
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