きみが教えてくれた夏
「此処は俺しか知らない秘密の場所なんだぞ」



得意気な顔をして鼻の頭を擦る。
へへんと胸も張って。



「えらい綺麗だろ?飲んでみ、うまいのなんのってなぁ」



海音が腕組みしながら言うもんだから私はその湖へと手を入れた。


ひんやり。


ぴちゃぴちゃ。


きらきら。



そして水をひとすくい掬う。
手の内側が鮮明に見えてしまう。


真っ白で透明で。
じっと見ていたら手からは半分の水が消えていた。



「ほれ、早く飲め。無くなるぞ?」



海音も自分の手で湖の水を口に運んでいた。
ちゃぷちゃぷと水を飲む姿も犬みたいで笑えてしまう。


私ももう一度、湖に手を入れ水を掬う。
今度はさっと口を付ける。



ごくごく。


ごくごく。



透明な色と同じで味もスッと舌に馴染む心地良い味だ。


もちろん、さっき海音から貰ったペットボトルの水とは比べ物にならないぐらい美味しかった。



「うめぇだろ?」



「うん、すっごく!」



にこにこ笑い返す。
そしたら海音も笑ってくれて。
やっぱり海音には笑顔が一番似合う。



「なら、今から水遊びでもしねえか?」



水遊び?
まさかこの湖に入るとでも?



「でも私、水着持ってきてないよ」



「大丈夫、こんな暑いんだ。すぐ乾くさぁ」



呑気に笑いながら海音は湖に飛び込んだ。


ばしゃん。


水しぶきが顔にかかる。
冷たくて気持ちいい。
だけど、なかなか入る気にはなれない。
それは私が都会人だからなのだろうか?



「何してる、早く入れよお。入んねえなら水かけんぞ」



そう言うと両手いっぱいに水を掬い、私目がけて振り投げた。
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