きみが教えてくれた夏
「よし。じゃあ先にこの丘を下った方が勝ちだ」



ダンボールに座った海音が言う。
準備ばっちりといった感じに。


私も恐る恐るダンボールに座る。
ザラザラした感触。


ズボンにしてよかった。
スカートを選んでいたらこの丘の途中でとんだ痴態を晒すことになっていただろう。



「行くぞ…!」



海音が深く深呼吸をした。
そして思いっ切り息を吐きながら。



「よーい、ドンッ!」



合図の声を飛ばした。


その合図で同時に下りだす。
どっちもほぼ同時だった。



スピードが徐々に上がっていく。



草っぱらをこんな風に下ることはもう一生ないだろう。



ザッザッ。



「うわぁぁぁあ〜っ…!」



怖くて目を瞑りたくなるけど瞑ってしまったら方向がずれて、何本か骨を折るだろう。



ダンボールの端を掴み、なんとか前方を下ることを維持する。



一方、海音は。


スラスラと草っぱらを駆け抜けていて、私の少し手前を下っている。


きっと何度もこんな風に滑っているのだろう。
全く姿勢もぶれていないし、叫び声も上げない。
むしろ、楽しそうな笑い声が聞こえる。 


私も無我夢中で少し前を下る海音の背中を無我夢中で追いかけた。
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