続・祈りのいらない世界で
「…美月ちゃんをバカにしたら私も怒るわよ?祈が美月ちゃんだけ名前で呼ばないのは、美月ちゃんが祈にとって特別な女の子ってこと。

それと、祈だけを引っ越しさせるっておじさんに頼んでいたみたいだけど、そんなことさせるつもりは毛頭ないわ。祈と美月ちゃんを引き離すようなことは私がさせない」



「祭ちゃんカッコいい♪」

「………さすがイノリのお母さんだね」



カゼ達がイノリの母に賞美していると、沙織は泣きながら家の中に入っていった。




「ちょっと大人げなかったかしら」


「ううん、祭ちゃんは正しいよ」


「………うん。イノリ引っ越すのやだし」


「私も。てか、祭ちゃんはキヨのこと大切にしてるよね」


「美月ちゃんは将来私の娘になる子だからね。もう今でも自分の娘に見えて、可愛くて仕方ないのよ」



イノリの母の言葉に3人は嬉しそうに微笑んだ。






その頃、1人山にいたキヨ。

空は厚い雲に覆われ、今にも雨が降り出しそうに暗さを増している。




イノリを取られた
イノリがいなくなる
イノリは私の味方をしてくれなかった


その全てが悲しかった。




キヨが大きな木に寄りかかりながら俯いていると、暗い空から土砂降りの雨が降ってきた。



体が雨で濡れる。


体が濡れると悲しさや侘びしさ、虚しさが心を渦巻き始めた。



「ふっ…うぁぁぁん!!イノリっ…イノリぃ!!!!迎えに来てよっ…」



いつもピンチの時は助けに来てくれるイノリ。


そのイノリが
もうすぐいなくなる。




「…っ。泣いちゃ…ダメだ。もうイノリはいなくなるんだから…頼っちゃダメだ…」



キヨが自分にそう言い聞かせ、木の下から出ると暗い空に雷鳴が響き渡った。


驚いたキヨは再び木の下に隠れた。




恐い
恐い
恐いっ!!!!

イノリイノリイノリイノリっ!!!!



今更イノリから離れるなんて、イノリを頼らないなんて無理だよ。




だって私は、イノリという存在を追い掛ける事で道に迷わず生きている。
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