続・祈りのいらない世界で
キヨが濡れた体を震わせながら縮こまっていると、優しい声が頭の上から降ってきた。



「…いた。よかった」



キヨが顔をあげると、目の前には大きな葉っぱを傘にしたイノリが立っていた。


イノリはずぶ濡れ。




「ごめんな。俺、お前にキツく当たりすぎた。…キヨの方が大事なのに」


「…わっ…私、あんな酷いこと言ったのにっ…。どうして探しに来てくれるの?…イノリはバカなの?」


「キヨがカッコいいと思う男が俺だけでいたいからだよ」



イノリが優しくキヨの頭を撫でると、キヨは色んな感情が混じり合って涙が込み上げてきた。




「やだっ…イノリ。何処にも行っちゃやだ。私から離れていかないで…置いてけぼりにしないでっ。……私、イノリがいないのっ…やだぁぁぁ!!!!」



キヨが大声で泣き出すと、イノリは優しくキヨを抱きしめた。


まだ小学生のイノリには、キヨをすっぽり抱きしめる事は出来ない。


でもそれでも強く、イノリはキヨを抱きしめた。




「いなくならない。俺はここにいる。俺がいなくなったら誰がキヨを泣き止ますんだよ。…俺だって嫌だ。キヨと離れるのは…嫌だ!!っ…うわぁぁぁんっ!!!!」



この日、生まれて初めてイノリが声をあげて泣くのを見たキヨ。



梅雨の湿った匂い
雨に濡れた土の匂い
雲を吹き飛ばそうとする風の匂い

その混ざり合った匂いに包まれて、2人は号泣した。



小さすぎる2人には、自分の意志だけではどうする事も出来ない現実が悲しかった。
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