続・祈りのいらない世界で
「………俺もあげる。はい」



カゼがケンに差し出したのは、濡れて少し溶けているてるてる坊主。



「いるか!!カゼ、自分がいらなくなったからってゴミを人に押し付けるなよ!!」

「………バレた」

「ほら、騒いでねぇで帰るぞ」



イノリがキヨの手を握り歩き出すと、3人も後をついていく。



紫陽花が咲く畦道に、イノリの赤・キヨのピンク・カゼの青・カンナの黄色・ケンの緑の5色のレインコートが綺麗に映えていた。





「じゃあまた明日ね。みんなちゃんとお風呂入るのよ」

「………うん。てるてる作ったら入る」

「俺もキヨケロ水槽に入れたら入る♪」

「キヨケロって何!?もっと可愛い名前にしてよ」




家に着いた5人はそれぞれの家に入っていった。


そんな中、キヨは家に入ろうとするイノリを呼び止めた。




「ねぇイノリ」

「ん?何だよ。お前ずぶ濡れなんだから早く風呂入れ」

「まだ沙織ちゃんいるかな?私、謝りたくて…」



キヨがそう言うとイノリは優しく微笑んだ。




「偉いなキヨ。お前のそういうとこ可愛い」

「だって噛んじゃったし、沙織ちゃんの気持ちもわからなくないもん」



キヨがイノリと共に家に入ると、ふてくされた表情をした沙織が縁側に座っていた。




「沙織ちゃん、ごめんね。腕、痛くない?」



キヨが沙織に歩み寄ると沙織はキヨを睨みつけた。




「…何でこんな子に私が負けるのよ。祈には私の方が似合うのに」

「沙織ちゃん、本当にイノリが好きなんだね。可愛い」

「あんた私の事バカにしてんの!?自分の方がイノリといられるからって優越感にでも浸ってるわけ!?」

「…ゆーえつかん?」



キヨが首を傾げると沙織は溜め息を吐く。




「可愛くないし、ダサいしバカだし。私の何がこの子に劣るっていうのよ」



ブツブツ嘆いていると沙織の耳元でキヨは囁いた。




「…私もイノリが好きだよ。だから沙織ちゃんとは気が合うんだね」



キヨがニッコリ笑うと、沙織は真っ赤になって縁側から去っていった。
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