続・祈りのいらない世界で
暫く虹に見とれていた2人が家に帰ると丁度沙織が帰る所だった。



「沙織ちゃんっ!!」



車に乗り込もうとしていた沙織を呼び止めると、沙織はキヨを見た。




「…きよ。私、あんたに負ける気なんかないからね。いつか祈に抱っこされるのは私だけにするんだから…。それまであんたの事忘れないわ」



沙織はそう言うと車に乗り、イノリの家を後にした。




「今度はいっぱい遊ぼうねーっ」



車が見えなくなるまで手を振るキヨを見てイノリは微笑んでいた。




「…俺が抱っこするのはキヨだけだって」

「へ?」

「わざわざ重いもん抱っこする程、俺は優しかねぇよ」



それは小学4年生の夏が来る前のこと。


梅雨がつれてきたキヨに新しい友達が出来た時の話。




雨の匂いも
紫陽花の色も
虹の形もあの頃とは違う。


ただ同じなのは
イノリが隣りにいること。







イノリはキヨに沙織との出来事を話した。



「あの時以来、会ってなかったから忘れたのか?沙織は俺のイトコだ。昨日はたまたま駅で会ったんだよ。あいつも結婚して東京に住んでるんだと」



イノリの言葉を聞いたキヨは、先程の自分の言動が恥ずかしくなって俯いた。




「もうやだっ…。私、バカみたい…」


「美月のバカは今に始まった事じゃねぇよ」


「私、イノリの事になると余裕がないみたい。好き過ぎて、その気持ちと比例するように不安になる…。お姉ちゃんとの事だって、もう何も思ってないはずなのに、たまにまたイノリが…誰かとそういう事しちゃうんじゃないかって思うと悲しくて」




子供の頃は、朝から夜までずっと一緒にいられた。


でも大人になり、仕事をしているイノリとは夜しか一緒にいられない。



当たり前の事だけど、急激に減った時間がたまに不安で、寂しくなるんだよ。
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