続・祈りのいらない世界で
「イノリっ…!!何処にも行っちゃやだ…」

「は?こんな時間に何処か行くワケねぇだろ、バカか」

「…やだ。起きたらイノリいないのは嫌っ…」



そう言ってポロポロと涙を流すキヨ。


キヨが何を言ってるのかわからないイノリは、キヨが恐がる理由に気付いた。




「…あぁ。あれがトラウマになっちまってんだな…」



イノリが初めてキヨを抱いた次の日、キヨに黙って静かに家を出て行ったイノリ。


あの時、空っぽのイノリの部屋を見た時キヨが感じた絶望感。


キヨはあの出来事がトラウマになっていた。




目を覚ましたらイノリがいなくなっているのではないかと…。




「大丈夫だよ。確かにあの頃の俺は1人でバカみたいに悩んで、俺がいなくなった方がお前が幸せになると勝手に思ってた。

でもお前を幸せに出来るのは俺しかいない。今はそれに気付いたから大丈夫だよ。

それに俺らもう夫婦だぞ?なんでお前から離れる必要があんだよ。バカだな」



「…だって…イノリ…」


「泣き虫で甘ったれでワガママでバカだけど、だからこそ可愛い美月を置いていなくなるワケないだろ?変な心配すんな。…ほら、こっちおいで」



イノリが両腕を広げるとキヨはイノリの胸に飛び込んだ。




「…イノリ…もうあんな想いしたくない。だから何処にも行かないでね」

「行かねぇよ、何処にも」




その日寄り添って眠った2人。



結婚したからと言って、幸せな日々を送れるワケではない。


生きていればついて回る不安や寂しさ、悲しみがある。




だけど、気持ちを分かち合える人がいれば必ず乗り越えられる。
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